2016年10月20日木曜日

クリムゾン・ピーク



映画 (Movie) / クリムゾン・ピーク 〔DVD〕

2015年作品

監督ギレルモ・デル・トロ

ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーヴァー

あらすじ:10歳の時に母親を亡くした少女は、母親のゴーストを見るようになり・・・。




とにかく美術が素晴らしかったです。

【おはなし】

20世紀初頭のアメリカ。イーディスは10歳で母を失うが、代わりにゴーストを見るようになる。

そして「クリムゾン・ピークに気を付けなさい」と言われるが、その意味がわからないまま、何事もなく時は過ぎ、すっかり忘れていた。

年頃になると、父の会社で手伝いをしながら、小説家を目指すようになる。
同世代の女子からしたら、風変わりと言え、時代的にも女性の小説家なんて受け入れられる気配はなかった。
しかも、内容にはイーディスとは切っても切り離せないゴーストが登場する事から、出版社には「恋愛小説の方がいい」と言われてしまう。

そんな時、父の会社に売り込みに来たトーマス・シャープ準男爵に偶然小説を見られ、褒められた事から惹かれていく。

だが、父親は娘とは裏腹に、トーマスに何か胡散臭さを感じて、好意が持てず当然投資にも難色を示す。

ある夜、父親は、イーディスに好意を持つ幼馴染の医者アランとパーティに行くが、誘ってもイーディスはパーティには興味ないと留守番を選ぶ。

ところが、トーマスがイーディスをパーティに誘うと、すんなり承諾するのだった。

パーティにトーマスと登場したイーディスに、父とアランは驚く。

父親は心配になり、ホーリーという男を使って、トーマスとその姉を調査させる。

するとその結果を見て、父親はトーマスの秘密を知ってしまい、手切れ金を払うから娘から離れるよう、取引きを持ちかける。金を渡すから街から出ていくように、と。
そして、その際に娘に未練を残させないよう、傷つけて欲しいと。

すぐに、小切手を受け取り、トーマスは食事の席で明日、街を出るといい、声をかけてきたイーディスに小説を批判したりして、きつく当たる。
父親に言われた通り、イーディスを深く傷つける。

翌朝、父親がバスルームにいると、何者かに襲われ、顔面を洗面台に打ちつけられ殺されてしまう。

だが、検死では「転んで顔を打った」とされていた。

一方、塞ぎ込むイーディスの元に、郵便が届く。
トーマスに渡していた小説で、それには手紙も添えられていた。

悲しみの中、気になって手紙を読むと、実はすべてお父さんに頼まれてした事で、本意ではないと、トーマスの暴言への言い訳が書かれていた。

イーディスはすぐに飛び出し、トーマスを追う。
そして、誤解を解いた所で、父親の死を知らされてしまう。

父の葬儀で、イーディスはトーマスから贈られた指輪をしていた。

彼らを止める父はもういないし、孤独になったイーディスにトーマスとの結婚は、迷う理由はなかった。

そして、イングランド、カンバーランド。
アラデール・ホールというトーマスの実家に引っ越す。

到着後に、村の人間に「結婚した妻です」とトーマスが言うと「知ってるよ、前から」と言われ疑問に感じるイーディス。

誰も知らない迷い犬がやってきて、イーディスにまとわりつき、飼う事に。

家には、当然トーマスの姉

爵位はあるが、名前だけの存在で、投資を求めて旅していた位だから、屋敷は修繕出来ずにボロボロだった。

エントランスホールの天井には穴が空きっぱなしで、1日中外気と共に枯葉やチリ、時には雪が降り注いでいる。

ハウスキーをくれといっても、何故かルシールが管理し、この家に慣れるまではダメだと言われてしまう。

何もかもが古く、まるで幽霊屋敷のようだったが、実際にゴーストを見たり感じるのは、イーディスだけのようだった。

姉弟は、明らかにイーディスを遺産目当てで選び、用が済んだら殺すつもりだった。
その為、お茶には毒を仕込んでいた。

トーマスを信頼しているイーディスは当然そんな事には気づいていなかった。

だが、たびたび見るゴーストは、姉弟の味方なのかイーディスの味方なのかどちらなのだろうか?

一方、イーディスの去った後、アランはイーディスの父親が書いた小切手の控えを見つけ、トーマスに何らかの支払をしていた事を知る。

それは殺害の前日とあって、何か気になり調査を始める。


イーディスは夜度々、うなされたり血を吐いたりして、目覚めるが、横に寝ているはずの、トーマスが居ない。

探すと、ゴーストに導かれるように「シリンダーレコード」の入っている箱を発見する。

さらに、ゴーストから逃げる勢いで、エレベーターに乗り込んでしまい、初めて地下に降りる。

そこには謎の大きな井戸のようなものが並んでいた。

そして、E.S.とイニシャルのついた大きなトランクを見つける。

翌朝、トーマスは仕事である掘削機のテストをしていた。

なかなか上手く行かないが、「クリムゾン・ピークになる前には」とつぶやいたのを、イーディスは聞き、驚く。
粘土質の土地のせいで、ある時期になると真紅に染まる事から、そう言われるのだと言う。

忘れていたが、以前母のゴーストに言われていたワードだった。

また夜に、ゴーストに「出て行け」「トーマスの血であなたの手が染まる」と言われ、いよいよイーディスは毒の効果も現れ始め、屋敷から出たいと言い出す。

だが、まだ最後の入金が終わっていない事からルシールは、イーディスをなだめるようにトーマスに言う。

翌朝、気分転換にと郵便局までトーマスとイーディスは出かけるが、そこでまた不思議な体験をする。

奥さんに手紙が来てますよ、と言われ弁護士からのものは問題ないが、1通イタリアからという身に覚えのない手紙を受け取る。

そこにはE.シャープとあり、偶然、イーディスとイニシャルが一緒だった。


一方、アランはホーリーの存在を知り、ホーリーと会っていた。
そこで、アデラホールの惨殺事件の新聞記事を受け取る。
姉弟だけが生き残ったという、事件だった。

実は、前回の調査で入手していたが、あまりにも恐ろしいので、父親には見せていなかった。
イーディスの結婚を回避できれば良いのだから、とトーマスの結婚証明書だけを渡したという。

父親の知った秘密は、トーマスが既婚者という事だったのだ。

そして、イーディス達は、その日は天候が悪く、郵便局の近くで外泊をする事になった。
初めてルシールに邪魔されずに、結ばれる2人。

翌朝帰宅すると、激切れするルシール。
その際に、イーディスはエノーラと刻印のある鍵を見つけ、こっそり抜き取る。

部屋に戻り、E.シャープ宛ての手紙を開けると、はっきりとエノーラと書いてある事を確認する。

そして地下のE.Sとイニシャルの入ったトランクに、鍵を使ってみると、それは開いた。

そして、中からシリンダーレコードを聞く為の機械と、いくつかの書類を見つける。


こっそり、シリンダーレコードを聞くと、過去にトーマスが結婚していた事、それは財産目当てで、用が済めば相手を殺していた事などがわかる。

写真から、イーディスになついていた犬もエノーラの愛犬だったとわかる。(だから神出鬼没だった)

全てを知ったイーディスは、そのまま居ても立っても居られず屋敷を飛び出すが、外は吹雪。
さらに毒が大分回っていたようで、血を吐いて倒れてしまう。


気が付くと、ベッドに寝かされルシールに看病されていた。

もちろん、お茶は拒否をするが、食事までは疑わなかった。

が、すでに、お茶に気づかれていると知ったルシールは食事にまで毒を入れていた。

姉弟で共犯ではあったが、イーディスには今までの妻より想い入れを感じていたトーマスは、お茶は飲むなとイーディスに警告する。

だが、またしてもゴーストに導かれるように屋根裏に行くと、姉弟の異常な関係を目撃してしまう。

ルシールはトーマスを愛するがあまり、2人きりの関係を邪魔されたくないから、気づいた人間を母親であっても殺して来ていたのだった。

もちろん、それだけではなく生まれながらのサイコキラーで、殺しそのものに憑りつかれているようでもあった。

そして、逃げるイーディスを追いかけ、階下に突き落とす。

その時、ドアがノックされ、アランが到着したのだった。

ギリギリで、医師であるアランに助けられたイーディス。
階段で転んだと説明を受けたが、もちろん信じずにすぐ逃げようと新聞記事を見せて言う。

もちろん、簡単に逃げられるはずもなく、ルシールは躊躇なくアランを刺す。

そして、止めをトーマスにさせるが、トーマスは致命傷にはならない場所を医師であるアランから聞き出し、刺した。

もう何も隠す事がなくなったルシールは、最後の書類にサインさせ、父親殺しも白状する。

サインの為に握っていたペンは、父から小説家デビュー(にならなかったが)のお祝いにともらっていたもので、イーディスは怒りからそのペンで、ルシールを刺して逃げる。

途中トーマスに会うと、強く拒絶するが、トーマスはアランは生きている、と言い味方である事を告げる。

トーマスは、イーディスを地下に逃がすとルシールを宥めるが、トーマスがイーディスを愛し始めている事に気づき、嫉妬からトーマスを殺す。

そしてイーディスを追う。

地下でアランと落ち合ったイーディスは隠れているが、ルシールが隠していた愛用の大ナタを床から取り出すのを見る。

お互い、戦いは避けられない。

外に出て雪の中殺し合うが、途中トーマスがゴーストとして現れた事でイーディスが優位になりルシールを殺す。

ゴーストのトーマスから噴き出た血を手で触れるイーディス。
ゴーストの予言通りとなった。

そして、屋敷にはルシールのゴーストが縛られ彷徨い続ける。

おしまい。

【かんそう】

昭和の少女マンガ、特に大好きな名香智子の世界にホラー要素を追加した、そのもので、それこそもっと若い頃に見ていたら、かなりのめり込んだと思います。

ストーリー自体は、名香智子でピンと来る方なら説明はいらない位ですが、耽美で禁忌な世界です。
ゴシック、猟奇殺人、近親相姦、デカダンス。

キーは、姉のルシールで、彼女が裏ボス。

個人的にはダーク・ヒロインとして憎めません。

恐らく今で言うサイコパスというか、狂人です。

弟を愛するあまり、実の母親ですら簡単に殺します。

だけど弟と2人きりの平穏な暮らしが手に入ったとしても、何か理由をつけては人殺しをし続けるだろうと感じるキャラクターです。

そんなルシールの支配下にあった弟、トーマス。

イーディスと出会う事で、初めて自我を優先させたくなるんですね。
それまでは、ルシールの言いなりである事に気づいてはいなく、自分も望んでいると思い込んでいたようですが、実はそうでもないんだ、と。

ルシールは、2人きりで誰にも邪魔されずに生活していく為に、弟を利用して財産目当てで結婚をさせ、手に入れたら殺害、が当然のものだとしていました。

愛する弟が居るだけでは生活はしていけない、と金にも執着しているのが、現実的で面白い所です。

とにかく、素晴らしいのが美術でした。

そのダーク耽美な世界観を、これでもか、と具現化していました。
服装はもちろん、屋敷、そして、クリムゾン・ピークといわしめる血のような赤い土地の演出。

いたるところに血が滲んでいるような赤が見えるのですが、それは彼らがシリアル・キラーである事を、土地の特徴を誇張して伝えているんだと思いました。

そんなおどろおどろしい場所へ、身内を失くして1人放り込まれたイーディス。

トーマスがこれまでの対象とは違って、心惹かれてしまう理由は、見ている観客にも伝わると思いました。

幼少からゴーストが見れるようになった事で、自然と周囲の女性とは孤立するような道を歩んで来ただけあって、なかなか強いのです。(余談ですが、名香智子作品の主人公は、昭和の少女マンガとしては珍しく気が強い女性が多く、そこが好みでもあります。)


恋愛には疎いせいか、トーマスの事は確証が持てるまで信じていましたが、ゴーストに立ち向かうように、常に困難に立ち向かっていたように思います。

この作品に、あれこれ突っ込むのは野暮だな、と思っています。

それを前提にあえて言うと、正直、ゴーストに助けられるという設定なら父親が死んだ時こそ、出時じゃないの!?

あっさりイーディスを敵地に行かせるの?

とか、気になる所は、あるにはあるんですよ。

でも、それじゃ物語は進まないのはわかってるし、そんな事よりも、この全体の雰囲気、世界観を楽しめればいいや、と。

なので、いわゆるホラーやサスペンスとして見るのも、もしかしたら若干的外れなのかもしれないと、思う程です。


言い換えると最近の作品とは思えない程、ストーリーは普遍的な耽美作なんですけど、ゴーストの表現こそ、チャレンジを感じました。

影のようでありながら、実態も感じて、ぬらぬらした質感も。

常に、風に揺れている部分があるのも、印象的でした。

それは吹き出る血だったり、生前の長い髪の毛なのか、なんなのかわかりませんが。

怖くもあり、美しくもあり。グロテスクなのはもちろん、だけどつい細部が気になって見てしまう。

色味が赤だったり、黒だったり、と単色なのがグロテスクをスタイリッシュに見せる効果になっていたんでしょうかね。

美術的な事は素人なのでわかりませんが、でもかなり拘っているという事は、伝わってきました。

個人的には、ゴシック系のゴーストや屋敷の内装よりは、ファッションが特に気に入りました。

これから秋冬シーズンですから、別珍等の素材感は特に素敵に見えて、華美なファッションが着たくなりました。

ファッションも含めて、イーディスの美しく強いキャラクターの魅力も本作の大きな柱だと思っています。


ちなみに、私がイメージした名香智子作品は、

・姉と弟が近親相姦

・姉は殺人狂で、次から次へと弟を使って屋敷に招き入れ殺して、血の匂いをさせるのが好き。

・弟はそんな姉に疑問を感じた事はなかったが、ある少女と出会い惹かれる事で、気づき最後には姉を殺す。

今手元に実物がないので、うろ覚えで間違いもあるかもしれませんが、「緑の誘惑」だと思います。

たしか緑シリーズといって、耽美で退廃的なお話しが何作かあるのですが、これを機に読み返したくなりました。


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