2017年4月28日金曜日

狩人の夜



チャールズ・ロートン 狩人の夜 DVD

1955年作品

ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンターズ、リリアン・ギッシュ

あらすじ:女嫌いのシリアルキラーが次に目を付けたのは、2人の子供で……。




星空に浮かぶ1人の女性。

「先週の日曜日のおさらいですよ。
主は山に登られ教えられた」

星空に今度は、子供達の顔が浮かぶ。

「心の清い人は幸いである。
彼らは神を見る。
栄華を極めたソロモン王さえ、野の花ほど飾らなかった。
それに、人を裁くな。あなた方も裁かれぬように。
さらに主は続けられた。
羊の皮を身にまとった、偽預言者に気をつけよ。
中身は貪欲なおおかみである。
その実で見分けよ」

子供達が遊んでいる。
すると納屋に女性の遺体を見つける。

「良い木は悪い実を結べず、悪い木は良い実を結べない。
あなた方はその実で見分ける」

車を運転する男が空に向かって独り言を言っている。

「主よ、次もまた夫を亡くした婦人ですか?
これで6人、いや 12人でしたかな」

男は、女嫌いのシリアルキラー、ハリー・パウエルだった。

なのにストリップ小屋に居た。
左手の指に1本1本に、H、A、T、Eのタトゥー。右手には同じようにLOVEが入っていた。
その左手でポケットの中の二つ折りナイフを握り、独り言を言う。
「数が多すぎて退治し切れません」
その途端、肩を叩かれ警官に声を掛けられた。
乗っていた車は盗難車だったらしい。

ハリー・パウェル、窃盗罪で30日の刑。

伝道師です、と言い直させるが、ヌード小屋で捕まった車泥棒と言われる。


2人の兄妹が布で出来た人形で遊んでいる。いつも妹が持ち歩いている人形だ。
そこへ、父親のベン・ハーパーが帰ってくる。
手には大金を持っていて、血を流していた。
父親は周囲を見渡すと、金をある場所に隠し、息子のジョンにそれを託した。
妹のパールを全力で守る事と、母親にも金の場所を言うなと。
将来に役立てろ、と。

そこへパトカーも到着。
そして子供の前で取り押さえられ、捕まった。

子供の為に銀行強盗をしたベン。
殺人も犯して絞首刑を言い渡された。

ハリーとハーパーは、刑務所で同じ部屋になった。
銀行強盗については知られていて、ハリーはなんとか金の在り処を聞きだそうとする。
そこへベンが寝言で「幼子が導くだろう」とは言っていた。

ベンと同室になったのは神の導きだと思うハリー。
1万ドルをどこかに隠した男。
じき寡婦になる妻(未亡人)。

これらは神からハリーに与えられた、と考えた。

そしてベンは死刑になり、ハリーは出所の日を迎えた。


ジョンとパールの住む町では、銀行強盗の末、絞首刑になった父親の話で持ち切りだった。
子供達は残酷に、絞首刑を歌に歌い、大人たちは「金はどこにあるの?」と聞いてきた。
未亡人となった2人の母親ウィラは、スプーンという飲食店でパートをしていた。
店のおばさん、アイシーからは早速再婚を勧められる。


翌朝、早くもハリーはスプーンの店に居た。
刑務所で仕事していて、ベンを看取ったウソをついていた。

右手と左手の話、善と悪の話を店で披露する。

「HATE」
カインが弟を殴ったのは左手だった。

「LOVE」
右手の指の血は魂へまっすぐ流れている。

右手は愛の手だ、と手を組んで取っ組み合いの小芝居を始める。
最後には愛が買って、とても良い話と店員達は喜び、気を許した。

パールは、ハリーにすっかりなついて抱き着いてもいた。
だがジョンは不信さを隠さず、母に失礼だと注意される。

ピクニックにも参加し、歌を歌ってすっかり打ち解けているハリー。
おばさんが、何の根拠もなく、おせっかいでウィラにハリーを炊きつけた。

ウィラはベンが盗んだと言われるお金のことを気にしていたが、ハリーはベンに聞いたとウソを言った。
「川底に大きな丸石で囲んで隠した」と。
ウィラは、自分が金の在り処を知っていると思われているのでは、と心配していたたが、そうではないと確信。
またジョンは、それを聞いて本当の事がばれていない、と安心した。


夜になって、ジョンが家に帰るとハリーがいて、結婚する事になったと言う。
明日、新婚旅行に行くから帰ったら仲良く暮らそうというハリーに「何も言わないぞ」と子供らしく先走ってしまうジョン。
すると当然「何をだね」と、ハリーに怪しまれてしまう。
何でもないというが、ハリーは気づいた。
ジョンが何かを知っている事を。


新婚旅行。
初夜に期待をしているウィラだが、女嫌いのハリーは違った。
結婚は魂の結合だとはっきり言うハリー。
「その身体は子を産むためだ。男の欲望のためではない。
まだ子を望むか?」
そう責めると、1人で寝始めた。
ハリーの説教に、自分を責めるウィラ。


2人が帰ってくると、ジョンはウィラにハリーが金の事を聞いてくると、ちくったが、ハリーに言いくるめられているウィラは、ジョンがウソをついていると思っていた。

そして、さらにウィラがハリーにちくり、またジョンはハリーと攻防という繰り返しだった。
ジョンの口が堅いので、ハリーはパールを手なずけてお金の在り処を聞きだそうとする。

それを帰宅した妻が偶然に聞き、ジョンが言ってることがウソではないとわかる。

スプーンの店では、店主がハリーを怪しんでいた。
だが街の雰囲気的には軽々しく言い出せなかった。


ウィラにすべてばれたハリーは、もう本性を隠す必要はなかった。
顔を叩き、金が川にあるという話はウソで、ハリーは知らないと言った。
知ってるのはジョンだ。
もはや、金目当てで近づいた事は疎いウィラも気づいていた。
そしてハリーはウィラにナイフをかざした。


翌朝、ハリーはウィラが家を出たとスプーンの店に来ていた。
あたかも妻に捨てられた哀れな男を演じて。
だが子供の面倒は見ると言う。

実際は、ウィラは車に乗せられ湖に沈んでいた。

だが、そこにボート小屋のバーディの釣竿が引っかかる。
ベンの形見のボートを管理してくれている面倒見の良いおじさんだった。

なかなか釣りあがらないので大物だとやっきになると、水底に死体が沈んでいるのを見つける。
だが、自分が犯人だと疑われるのではないか、と悩む。


家では歌を歌いながら子供達を探すハリー。
ジョンは母親がいなくなり危険を察知し、夜になったら家を出ようとパールに言う。
それまで地下に隠れていようとするとハリーに見つかるが、そこへスプーンの店のおばさんが訪ねて来て一時休戦。

その後、しつこく金の在り処を聞くハリー。
ジョンは地下室の床の下だとウソを言うが、すぐウソだとばれるとナイフをつきつけられてしまう。
すると、怯えたパールが人形の中だ、と本当の在り処を言ってしまう。
金は常に目の前にあったのだった。灯台下暗しに笑い出すハリー。
その隙に地下室の棚を落としてハリーの頭にぶつけ、そのまま地下室に閉じ込め、2人は家を逃げ出した。


いざという時に頼りにするつもりだった、ボート小屋のバーディーおじさんを訪ねる。
だが、死体を見つけたショックで飲んだくれて寝ていた。
当てにならないので、子供だけでボートに乗って逃げる事に。

ハリーは怪しまれぬように、子供達と姉の農場へ行ったとウソのはがきをスプーンの店に出していた。

川の流れのままに進むとハリーも一緒に着いて来ているのが分かっていた。

ある朝、寝起きに1人の女性に起こされる。

それは、冒頭の女性でレイチェル・クーパーだった。
孤児の面倒を見ていて、見つけた泥だらけのジョンとパールも当たり前のように保護した。


孤児の1人で中でも一番年上で、ちょうど男を意識し始めたばかりのルビーにハリーが目をつける。
アイスクリームで釣って、ジョンとパールが来た事を聞きだす。
だが、聞きたい事を聞き出せばすぐ態度を変えたハリーに、まだ子供のルビーは傷つき、家に帰ってクーパーに泣きつく。
そこで、ジョンとパールの事を探る男が居るという事を知る。

翌朝、早速ハリーが家に来る。
泣きながらに2人に会いたかったというが、疑いの表情で見ているクーパー。
そしてジョンの頑なな態度にも気づく。
「パパじゃない!」というと、クーパーも「牧師でもない」と言って家の中から銃を取り出した。

さすがにナイフでは敵わず逃げて行くハリー。
「悪魔め! バビロンの娼婦」
と悪態をついて夜にまたくるぞ、と予告した。


そして夜。
家の外で歌を歌うハリー。

「頼れ 頼れ
すべての恐怖から守られて
頼れ 頼れ
永遠の御手に頼るのだ」

家の中では銃を持っているクーパーが子供達を守っていた。

「この深き交わり聖なる喜び
永遠の御手に頼るのだ

何という祝福
わが心の安らぎよ

永遠の御手に頼るのだ」

クーパーも一緒に歌い出す。

「イエスに頼りまつれ
すべての恐れから守られて

イエスに頼りまつれ

永遠の御手に頼るのだ」

子供がろうそくを持って部屋から出てきた一瞬、家の前にいたハリーが一消えていた。
警戒して子供達を一か所に集めるクーパー。
侵入されたので、州軍を電話で呼んだ。

翌朝、納屋から出てくるハリーは警察に囲まれていた。
ウィラ・ハーパー殺しで逮捕される。

警官に取り押さえられる姿を見て、父親を想い出したのか「やめて」と言い出すジョン。
そして、父親と混乱したのか人形を掴むと、「いらない、返すよ」と金をまき散らしながらハリーを叩いた。


街はハリーを青ヒゲといい、吊るせ! と暴動になっていた。
クーパーはそんな騒ぎをもう知らんとばかりに、子供達を連れクリスマスの日常を取り戻していた。

子供達は次々にクーパーにプレゼントを渡す。
でも、渡すものがないジョン。

家にあったリンゴを敷物でくるんで渡すと、最高の贈り物だと喜んでくれた。

子供達がプレゼントを取りに隣の部屋に行くと、カメラに話しかけるように独り言を言い出すクーパー。

「主よ、幼子を助けたまえ。
恥知らずかもしれません、クリスマス1日だけの信心など。
幼子が運命に従う姿に心が洗われます。

幼子をお助けください。
身を切る雨風にも彼らは従順です」

プレゼントに喜ぶ子供達。
前から気になっていた懐中時計を貰って喜んでいるジョン。

「良い時計でしょう。
これでいつでも時間がきけるわ」

再び、言う。

「従順で我慢強いのです」

おしまい


かんそう:

初めて見た時の衝撃も凄かったですが、2回目見ると衝撃の興奮が少し納まっているせいか、少し理解が深まった気がします。

女性に嫌悪感があるのか、女性ばかりを狙うシリアルキラーのハリーは、それは神の使命だと思い込んでいる。
聖職者を名乗りながら殺人鬼という、今でこそ珍しくはない設定も、当時は過激だったのではないでしょうか。

同じような設定にケン・ラッセルの「クライム・オブ・パッション」を想い出します。

過去記事)

クライム・オブ・パッション


こちらの記事にも、「設定が似てる」と書いてますがw

とにかく、モノクロの世界も古さではなく、逆に映画という映像作品においては、時間が切り取られたイメージで、もはや普遍的にも思える位です。

モノクロの世界ならではの、影を利用した演出には、大好きなルイス・ブニュエルを想い出します。



時代としては、ブニュエルの方が先なので、影響を受けていた可能性はありますよね。

特に好きなのは、皆大好き指のタトゥーw
LOVEとHATEという、対極的な言葉を右手と左手に刻むというオサレさは、後に影響与えまくり。

影のシーンは、夜初めてジョンとパールの家を見に行った時のハリーのハットの影。
それを影絵のように見て、子供達が怯えるという。

ハリーは、タトゥーだけではなく、大き目なハットに白いシャツ、ボウタイという、「エル・トポ」にも通じるファッションも、オサレでした。



ハリーは今回は、お金目当てで再婚をしましたが、自分が伝道師であるという立場を利用して、妻との肉体関係を拒む事を正当化します。
それどころか、そんなものを望む妻こそ、悪! って感じであっさり洗脳します。
全ての欲を求める女は堕落してる!! って言い分なんですよね。

ハリーが怪しい、おかしいのではなく、自分がおかしいんだ、という事で誰にも言えず、結果ハリーはシリアルキラーである事もばれないまま、金の在り処を探すだけ、という。

正体がバレると、金の在り処は知らないし、騒がれたらマズイからとあっさり殺す。

まあ、殺しは予定通りですが。
ハリーのターゲットそのもの、の女性でしたから。

要素は、ハリーとか親が強盗で処刑とか、えぐい要素が詰まっていますが、モノクロのドライな映像と、後半、ジョンとパールを保護してくれるクーパーとの出会いで、結果ハッピーエンドでまるでおとぎ話のような後味になっているのが、面白いんですよね~。
時代の古さも、その味わいに一役買っていますね。

おとぎ話といえば、ジョンとパールがボートで家を逃げ出す道中、岸部の移り変わりを生物で表しているのが、とてもファンタジックで童話っぽくって、そこもお気に入りでした。

最初は蜘蛛の巣、次にカエル、そのうちウサギ……と、家を離れる=ハリーから逃げられたとでも思えるように、ほのぼのとしたイメージに変わっていくんです。

蜘蛛の巣からカエルになった時は、カエルが蜘蛛を食べる、だから逃げているようで食べられちゃうよ、というイメージなのかな、とも思いましたが、ウサギはカエル食べない……ですよね?w

実際はハリーもしっかり着いて来ていて、危険さには変わらなかったんですけどね。
彼らの心情を表していたのか、それとも待ち受ける保護者クーパーさんのイメージなのか。
ウサギには大分ほっとさせられました。

ただ、クーパーさんも少し偏ってはいましたw
そこもまたこの映画の味、な部分なのですけど。

クーパーさんは独身主義者っぽくて、孤児を保護しては家族のように面倒を見ているんですけど、その分「恋愛」「女性」という部分には「フン!」って感じに見えました。

その点は、実はハリーとクーパーさんは、どこか似た者同士でもあったんですよね。

だからこそか、ハリーがクーパーさんの家の前で歌を歌って侵入のきっかけを見計らっていると、途中からクーパーさんも一緒に歌ってしまうw
これもお気に入りシーンなんですけど、もしかしたらそういった両者の関係性を伝えているシーンだったのかもしれませんね。

また忘れた頃に見て、気づいたり、考えを改めたりして楽しみたい作品の1つです。



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