2017年10月24日火曜日

歓びの毒牙


ダリオ・アルジェント 歓びの毒牙 HDリマスター版 DVD
1969年作品

監督ダリオ・アルジェント(デビュー作)
原作フレドリック・ブラウン「通り魔/The Screaming Mimi」

あらすじ:


アメリカ人作家が、イタリア滞在の帰国直前に殺人未遂事件を目撃する。
犯人の顔は見えなかったが、その時何かの違和感を覚えていた為、気になって自らも事件を追い始める――。





謎の連続殺人事件


イタリアでは、1ヶ月に3件もの未解決殺人事件が起きていた。
被害者はいずれも女性。
共通点や手がかりはなし。

そんな中、アメリカ人作家のサム・ダルマスはアメリカへの帰国を2日後に控えたある夜、帰宅途中に通りかかった画廊の中で、男女がもみ合っているのを目撃する。
ナイフを手にしていたので、危険だと思い画廊に駆け寄る。

店のドアはロックされており、中に入る事はできなかったがサムに気づいた犯人はすぐに逃げて行った。帽子にコート姿の男だった。
その時、犯人に画廊の表側のガラスの扉を自動で絞められ、サムは2枚のガラスの空間に取り残されてしまう。

サムは表を通りかかった男性に警察を呼んでもらった。

女性は出血が少なかったようで、一命を取り留めた。


被害者モニカ・ラニエリ


サムが助けた被害者はモニカ・ラニエリ。
後から駆けつけていた夫は画廊のオーナーのアルベルト・ラニエリ。

帳簿の整理をしていた為、モニカ1人で残業をしていた所だった。

店内に犯人のものと思われる手袋が落ちていた。

それ以外は、サムの目撃証言を期待されたが、特にはっきりとした手がかりはなかった。
ただ、サムは「何かが変だった」と漠然とした違和感を持っていた。

2日後にアメリカへ帰国するというと、モロシーニ警部にパスポートを取り上げられてしまう。
何か思い出すまで出国禁止にされてしまった。

おそらく一連の連続殺人犯だと言う事で、大事件に巻き込まれてしまったのだった。


犯人像


警察からの帰宅途中、サムは何者かに刃物で襲われた所を、通りかかりの老婆の声で間一髪避けていた。

家に帰ると、モデルの恋人ジュリアが帰宅していた。
今日あった事を話してもすぐには信用されなかった。

翌日、サムは警察に呼ばれて新たな情報を得る。

犯人の落とした手袋から、プロファイルが浮かび上がったのだった。
左手にハバナ産の高級葉巻の灰。
イギリスだけで作られるカシミアの繊維。

犯人は左利きで、葉巻を好み服に気を使う人物だろう。

しかし、これに当てはまる人物をコンピューターにかけると、15万人と膨大な該当者が出た。

警部は、結局勘で動くしかないと言い、サムにももう一度何を見たのか集中してくれ、と頼む。

しかし、そう簡単に思い出せる訳がなく、サムは何かのきっかけがつかめるかもしれない、と退院したモニカを訪ねる事にした。


ラニエル家


警部に住所を聞いて、ラニエル家を訪ねた。
しかし、アルベルトにモニカの面会を断られてしまう。
もうすべてを警察に話したし、これ以上苦しませたくない、と。

サムは、ふと気になってアルベルトの身長を訪ねた。
182センチと言われ、タバコを投げつけると受け取った手は左手だった。


探偵ごっこ


サムは帰宅すると、ジュリアと一緒に3つの殺人事件を調べ始めた。

1人目は家とは逆方向の公園で殺害された古物商の店員。

2人目は娼婦。
仕事場の橋の下で死亡。
1か月以上服役中のヒモのガルーロにはアリバイが完璧だった。

3人目は映画帰りの学生。

サムは古物商を訪ねてみる事にした。


古物商の絵


古物商へ行くと、やたらサムにべたべたする男の店員が出迎えた。

店員は、その日の事を良く覚えていた。
その日はまったく売れずに、閉店前に1枚の絵が売れた。
本人は奥に居て客の顔は見ていなかったが、対応したのが殺された店員だった。

変わった絵で、牧歌的なのに寒気がする感じ。
サムは、絵のモノクロ写真を頼み込んで貸し出してもらった。

その絵は、雪の野原で少女が襲われている。
男に刺されて血を流していた。

そのオリジナルはカラー作品で、犯人の家に飾ってある。


第4の犯行


第4の犯行が起きる。
警部は、サムの家を訪ねて再び協力を依頼し署に連れて行く。
だが、そう簡単に記憶が蘇る事がない事を確認すると、警部はサムにパスポートを返した。

しかし、今度はサム自身が「もう少し調べたい」と帰国する意図が無い事を伝えた。
警部も協力すると言うと、サムは早速第2の被害者のヒモの「ガルーロ」と話したいとリクエストした。


犯人からの電話


警部は第4の犯行を受けて、TVで記者会見をした。
「もうすぐ犯人を捕まえる」

すると、それを見た犯人から電話がかかってくる。
「有力な情報なんてウソだ。
何も分かってない。
視聴者を騙すな。
1週間以内に第5の殺人が起きるぞ」


黄色いジャケット


ガルーロに面会すると、語尾に「あばよ」とつけるのが癖だという、変わった男だった。
犯人捜しをしていると伝えるが、大した情報は得られなかった。

その夜、ジュリアに報告しながら歩いて帰宅していると、警部につけられた護衛が車で狙われて轢かれてしまう。

その次の狙いはサムで、車から黄色いジャケットを着た男が降りて、銃を持って追いかけてきた。
途中でジュリアを隠れさせ、1人で逃げ続けなんとかバーへ逃げ込んで諦めさせた。
そして今度はサムが黄色いジャケットを目印に男の後をつけた。

行き先はラックス・ホテルで、ロビーで従業員に黄色いジャケットを目印に尋ねると、すぐに「第3回ボクサー同窓会」の会場を教えてもらう。
その部屋を覗くと黄色いジャケットだらけ、だった。


結局、護衛は死んでしまった。
ボクサー全員を調べる事にはなるが、サムとジュリアにはさらに念入りに護衛がつけられるが、同時に警部からは帰国をアドバイスされた。

それでもサムは「核心に近づいているから、犯人に狙われるんだろう」と断った。


その直後、犯人は予告通り第5の犯行を起こす。


犯人からの2回目の電話


サムは、再びガルーロに面会した。
すると金で、情報を売ってくれる男ファイナを紹介してもらう。

ファイナは、翌日にすぐサムの家を訪ねてきたので、サムは黄色いジャケットの男についての調査を依頼した。

そこへ犯人からの電話がかかって来る。
やはり昨日の件は、警告だった。
早く手を引いてアメリカに帰らないと、恋人が死ぬぞという脅しだった。
ジュリアの存在も当然知られている。

電話の録音データを警部に渡すと、背後で何かがきしむ音がしている事に気づく。

サムは、ジュリアの事が心配になりこのまま関わっていいのか悩み出す。


元ボクサー



ファイナからの電話で、元ボクサーのニードルズという男の住所を教えてもらう。
住所を訪ねると廃墟のような場所だったが、確かに住んでいる形跡があった。
声を掛けても留守のようだったが、勝手に家の中を調べる。
するとニードルズが死んでいるのを発見する。


オシロスコープ


オシロスコープで2件の犯人の電話の声を比べてみた所、別人である事がわかった。

犯人は2人なのか?
1人は協力者なのか?

警部は死んだ元ボクサーが協力者だったのだろうと言った。
きしむ音の正体探しは難航しているようで、まだわからなかった。

サムは2日後に帰国を決めた。


カルロ


サムが帰国の荷造りをしていると、担当していた編集者のカルロが訪ねてきた。
サムは今回の事件も文章にし始めていたのだった。
ついでに、犯人の電話の録音テープを聴かせると、カルロはきしむ音に心当たりがあるといってテープを借りて行った。


絵の作者


荷造りを続けるサムは、家の中に貼ってあった古物商で借りた絵に目を留めた。
そうえいば、絵の作者にまだ会っていない。

古物商に電話して、搭乗まで8時間あるからまだ間に合うと作者のベルト・コンサルヴィを訪ねる事にした。
荷造りをジュリアに任せて飛び出して行った。


コンサルヴィの家に着くと、相当な変わり者のようで家には玄関がなく、2階の窓からハシゴが降りて来た。
不用意に人を入れたくないという事情だったが、絵を買いたいというとすんなり入れてもらえた。

食事中だったようで、サムにも勧められるがあまりの怪しさにサムは警戒して食べるのを誤魔化していたが、距離を縮める為に無理やり口に放り込んだ。

コンサルヴィの絵の傾向は今ではすでに気分で変わっていた。
あの絵を描いたヒントは、昔の事件だという。
10年ほど前に、変質者が知り合いの娘を襲った。
コンサルヴィが彼女を助けて男を施設に入れていたという。

絵を見せようというコンサルヴィが奥の部屋のドアを開けると1匹の猫が飛び出してきた。
慌てて猫を捕まえて、再び奥の部屋に戻すとそこには檻に猫が数匹入っていた。
その理由を聞くと、「太らせたいから」と言う。

コンサルヴィは猫を食糧としていたのだった。
思わず、驚いたサムは「猫なんて食べた事がない!」と言うと「そうか?」と言われる。

自分がさっき食べたのは猫だったのかもと気づいたサムはショックで、そのままコンサルヴィが絵の値段を叫ぶのを無視して、出て行った。


結局、サムは作者にあった所で何も収穫がなかったと思った。
駅からジュリアに電話をして、ストで遅れると連絡を入れた。
するとカルロから大発見だという連絡が入っていると言われる。

しかし、その頃ジュリアの待つ家には、犯人が近づいていた。

とうとうサムの家に犯人がおしかけ、ジュリアの身に危険が迫った。
ギリギリでサムの帰宅が間に合い、犯人は家の中に入る前に逃げ去って行った。


きしみ音の正体


翌朝、ジュリアに何もなく済んだ事にホッとしていると、カルロが飛んで来た。
きしみ音の正体が分かったのだった。

水晶のような声で鳴く鳥、ホルニトス・ネバリスだった。
シベリア北部にだけ生息している珍しい鳥で、飼育が難しくイタリアに1匹しかいないという。

それが動物園にいるのだった。
すぐに3人で確認しに行くと、その鳥の檻の向こうにはなんとラニエリのアパートが見えていた。

犯人は夫アルベルトだと気づいた瞬間、モニカと思われる悲鳴が響いた。
慌てて3人は、ラニエリの家に向かう。


犯人


アルベルトとモニカはナイフを持ってもみ合っていた。
3人の顔を見るとその隙にモニカはアルベルトの元から逃げ出して来た。

アルベルトは観念したのか、サム達にナイフを向けて威嚇する。
サムと駆けつけた刑事でアルベルトを追い詰めると、アルベルトは窓の外に落ちてしまった。
サムの手だけで引っ張っている状態になると、アルベルトは命乞いをするが、力尽きて落下してしまう。
その死に際に告白する。
「その通りだ。私が皆殺した。妻をよろしく。
彼女は私を止めようとした。愛してた」


その騒ぎで、サムはカルロとジュリアを見失っていた。


真犯人


サムは周囲の人にジュリアの事を訪ねて、捜し続ける。

するとどんどん現場から離れていき、すっかり暗くなった頃にある建物の裏口のようなドアに辿り着いた。
ここに入って行ったよ、と掃除をしている人に言われて恐る恐る中に入って行く。

人の気配を感じさせない広い建物の中を調べる。

廊下を歩いていると突然明かりが消えた。

鍵のかかっていない扉を開く。
電線が通っていないのか、ライトはつかなかった。

窓から漏れる明かりを頼りに進むと、ジュリアは猿ぐつわをされて足元に倒れていたが、まだサムには見えていなかった。
暗がりの中でサムは物を倒しながら進むが、その時ジュリアの目の前に電話が倒れ落ちていた。

サムがカーテンを開けて部屋に光を入れると、そこにはあの絵が飾られていた。

そしてナイフを持ったカルロが椅子に座っているのが目に入る。
サムはカルロを犯人だと思うが、カルロはすでに背中を刺されて死んでいた。

そこに笑い声が響く。
影からコート姿の真犯人が登場した。

帽子を取ると長い赤毛が踊り出て、それはあのモニカだった。


あの夜見た時、ナイフを持っていたのはモニカの方だったのだ。
それがサムにとっての消えない違和感となっていた。

モニカはドアに鍵を閉めて再び外へ出て行った。
サムは窓をから飛び降りてモニカを追った。

しかし入って行った部屋は真っ暗だった。
手さぐりで歩いていると、突然電気が付いた。

そこはあの画廊で、大きなとげのついた板の作品を倒され下敷きになってしまった。

サムをナイフで威嚇するモニカ。
美術品の上にも乗り、体重を掛けて笑いながらサムを苦しめた。


そしてナイフを振り上げた時、警部達が間に合った。

ジュリアが連絡をしてくれていたのだった。


連続殺人事件の幕


モニカは施設に送られた。

夫はあくまでも愛情から、犯人を装って死んでいったのだった。

TV番組で説明をする警部は、精神科医のレノルディ教授に説明してもらう。

推測だと前置きしてから。

「10年前からモニカが抱いていた妄想。
変質者に襲われていたのはモニカだったのだ。
その後回復していたが、10年後になって事件を描いた絵を見てしまった。

当時の彼女は被害者だったが、その怒りがゆがんだ形で表出し何故か被害者に同化せず加害者に同化した。

夫は、犯行を隠すうち自分を見失ってしまった。
変質的な妻の影響を受けた。
彼自身も異常だった」


サムとジュリアは無事、アメリカへの帰路についた。


おしまい


かんそう:


イタリアン・サスペンスの代表といえるダリオ・アルジェント監督のデビュー作です。
すでに、何作か見た後で見たので、まさか原作があるとは思いませんでした。

それ程、シナリオが「ダリオ節」炸裂って感じだからです。

最初に犯人が登場している事。作品で言えば、タイトルのビジュアルが犯人って事ですからね。
いかにも監督らしいように感じます。

そして、キーアイテムとなる牧歌的な殺人の絵。
実際は、もう少し役に立っても良さそうでしたが、それでもあの絵のインパクトや存在は、ダリオ作品らしいといえる存在感を放っていました。

そして、すんなりと真犯人に辿り着けない構造。

デビュー作でもあり、古い作品でもあり、原作の影響もあるのかどうかはわかりませんが、今見て突っ込みどころがないとは言いません。

例えば「絵」1つとっても、「何故それを警察に言わないのか」「絵の作者を調べるというのはもっと早く気づいてもいいんじゃ?」「せっかく訪ねて仕入れた事件の話しを、収穫ナシで片づけるのは腑に落ちない」等々、気になる事は沢山あります。

でもそんな雑音をひとまず古い作品に被った埃くらい、いいじゃないと振り払って気にせず楽しみたい魅力が、ダリオ作品にはあるんですね。

やっぱり映像の作り方がデビュー作からすでに出来上がっていて、特に序盤の画廊のシーンは印象的です。

まさにイタリアンなオシャレな画廊の迫力。
画廊とはいえ、置いてあるアートは大きな彫刻だらけで、かなり非現実的な空間になっています。
夜にそこだけ明るく輝く店内は、ほとんど白で統一されており、彫刻は灰色のみ。

その中で、真っ白なジャンプスーツを着たモニカが真っ黒で統一した男性と揉み合っています。

この始まりのシーンだけでも、見た甲斐を感じる印象的なシーンでした。

そして、サスペンス作品としての努力をひしひしと感じました。
突っ込みどころはありつつも、丁寧な伏線もあり、観客に謎解きさせたいのだけど、でも手強くしてやろう、という意識を感じます。

まさに、以降に続く作品の原点そのもの、でした。

描写はほとんど省いていますが、美しい女性が、刃物で襲われるという少しホラーよりな殺人のシーンもデビュー作からブレがないと言う事がわかりました。


私がダリオ・アルジェントの作品に持つ魅力というのは、イタリアという素晴らしい舞台とサスペンスとしての謎解き、そして独自の不気味なシンボリックなアイテムなのですが、それがデビュー作からしっかり登場しているというか、ほぼブレなくクリエイトし続けていたんだと知る事が出来ました。


謎解きについては、まず最初は意図的に、犯人は画廊の主人=男だと思わせています。
そこに被害者が売った「奇妙な絵」が登場し、画廊と絵画という結びつきを見せたのかもしれませんが、画廊で扱っているのは彫刻だったので、実はあまり結びつきは感じませんでした。

どちらかというと、最初から「画廊の主人」はミスリードなんだろうな~と。

そこへどんどん犯行が続き、あっさり「電話の録音に入ってた鳥の泣き声」で画廊の主人が犯人だと判明します。
でも何も考える間もなく、ジュリアとカルロとモニカがその現場から消えてしまった事で、「真犯人は別にいる」っていう展開になるんですね。

ここは、ちょっと勿体なく感じました。
どちらかというと、なんだー画廊の主人が犯人だったのかー、そんなわかりやすいのー? ってたっぷり思わされた後に、「やっぱり違うんじゃん!」と思いたかったw!

急に駆け足で解決していくような感じではありました。

ただ、最後行き着いた所が最初の事件現場の画廊だったという所は、面白いと思いました。
サムがアートの下敷きになって、モニカの毒牙にかかるというのも画廊という設定ならではの、現実なのに非現実的な絵面でダリオっぽいな~と思いました。

モニカの殺人の動機もちゃんと設定としてありましたし、本当に良くできていると思います。
でもやっぱり、「あの絵は実在の事件を描いたもの」とわかった時点で、その事件を調べていれば……。
早くモニカに辿り着いたのに!

と突っ込みたくって仕方ありませんw

そんな突っ込みも含めて面白かったです。





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