2017年7月6日木曜日

ブルーベルベット



  デヴィッド・リンチ ブルーベルベット<オリジナル無修正版> Blu-ray Disc

1986年作品
監督デヴィッド・リンチ

カイル・マクラクラン、イザベラ・ロッセリーニ、ローラ・ダーン、デニス・ホッパー、ジョージ・ディッカーソン、ディーン・ストックウェル

あらすじ:


野原で偶然、切り取られた人間の耳を見つけてしまい……。





白いフェンスに鮮やかな黄色い花、手を振る消防士、赤い花。
幸せを感じさせる一軒家の庭の芝生の下には、虫が蠢く闇があった。


ある日父親が突然庭で倒れ、入院した事により大学から実家に戻る事になったジェフリー(カイル・マクラクラン)。
病院に見舞いに行った帰り道で、ジェフリーは小石を探していると人間の耳を発見してしまう。
すぐに、持ち帰りランバートン警察のウィリアム刑事に届ける。
ウィリアム刑事はジェフリーの実家の隣人で、娘のサンディ(ローラ・ダーン)は出身校の後輩だった。

夜、気になったジェフリーはウィリアム刑事の家を訪ね、捜査の進展を訪ねるが、解決するまでは何も言えない、関わるなと注意される。

家を出ると、暗闇からサンディが現れ、いきなり耳を見つけた事を聞かれる。
自室の真下が父親の書斎で、話している声を聞いていたのだった。
それによると、女性歌手の名前が出て、以前からそのアパートには刑事が張り込んでいるらしい。

ジェフリーはアパートを案内させた。
リンカーン通りにあるディープリバー・アパートで、それは家を出る前におばさんに「リンカーン通りには行くな」と言われていた通りだった。
その日は建物を確認して、すぐに帰った。


ディープリバー・アパート


翌日、ジェフリーはサンディの下校に車で声を掛け、アパート侵入に協力させた。
実家の店が金物屋だったので、害虫駆除の振りをして部屋に入る。
その後、サンディがエホバの証人となって訪ねる。
その隙を見て、窓を開けておいて夜になったらその窓から入ろうという作戦だった。

最初は乗り気ではなかったが、サンディは協力した。
無事、ドロシー・ヴァレンズ(イザベラ・ロッセリーニ)の部屋に入るが、ノックと共に入ってきたのはサンディではなく黄色いジャケットの男だった。

ジェフリーは慌てて台所の棚に隠すように張り付けられていた鍵を見つけると、盗んで仕事を終わらせた。

外に出るとサンディが、男に先を越されたといって待っていた。
2人共、黄色いジャケットの男の顔は良く見る事が出来なかった。


スロー・クラブ


夜、再びサンディと待ち合わせをし、本格的な侵入をした。

まず、ドロシーの働くスロー・クラブへ行き、ドロシーが出勤している事を確認した。
ドロシーが「ブルーベルベット」を歌い出したのを確認してアパートを目指した。

アパートの前でサンディは、やっぱり出来ない、と言い出すが、ジェフリーが強要しないですぐに帰っていいよというと、車で待機して見張りをする事にした。

ジェフリーは、710号室をノックした。
返事がないことを確認して鍵を使う。

一通り部屋を見るが、特に変わったものはなかった。
子供は住んでいないようなのに、子供のパーティグッズの三角帽子があるのが気になるくらいだった。

そこへドロシーが帰宅する。
サンディは約束通りクラクションを鳴らすが、ジェフリーはスロー・クラブでハイネケンを飲んでいた為、トイレを借りていてその水洗の音でクラクションがかき消されてしまった。

鍵を開ける音に慌てて、クローゼットに隠れるジェフリー。
隙間から部屋の様子は伺えた。
そうとは知らないドロシーはすぐに、服を脱いで下着姿になった。
そのままクローゼットを開けようとした時、電話が鳴った。

フランクにドンと話をさせて、と頼んでいる。

あの歌は好きです。
ドン心配しないで。
ドニーは無事? そこにいるの?
メドー通り? フランク彼に何をしたの?
優しくします。いい子ね坊や。
はいフランクさん。

ドロシーは何か怯えているようだった。
するとソファの下から額縁を取り出して見ては、また隠した。
そしてバスルームに行ってから、クローゼットを空けて青いベルベットのローブを取り出した。

その時、クローゼットの物音にドロシーは気づいた。
そっとナイフを手に取り、再びクローゼットを開けてジェフリーが隠れているのを暴いた。


ナイフでジェフリーを脅しながら、身元を確認する。
ジェフリーは素直にIDを見せて、ファンの振りをした。

ドロシーはジェフリーが自分の裸を見たと知ると、ジェフリーにも服を脱げと言った。
そしてソファに横たわらせると、ノックが聞こえた。
慌てて、再びジェフリーをクローゼットに入るように言った。


フランク


ドロシーを訪ねてきた男はフランク(デニス・ホッパー)だった。
皮のジャケットを着た高圧的な態度の男だったが、マスクを取り出し何かを吸うと一転、マミーと子供の用になりドロシーを呼んだ。
だが、すぐに「こっちを見んな」とドロシーを殴ったりもする。
またベルベット生地にも異様な執着を見せ、ドロシーのローブの端を口に含むと、ドロシーの口にもまたベルトの端を突っ込んだ。
サディストであり、特殊な性癖の持ち主でその相手をドロシーに強要していたのだった。
自分が満足をすると「ゴッホの為に生きてろよ」と言って出て行った。


一部始終を見ていたジェフリーは、クローゼットから出るとドロシーを労わった。
しかしドロシーは、フランクに慣らされてしまっていたようで、ジェフリーにも「私を叩いて」と言う。
同時に自己嫌悪もあるのか、ドロシーがバスルームに駆け込んだ隙に、ジェフリーはこっそりソファに隠した額縁を見てから部屋を出た。
その写真は、部屋で見た三角帽子を被った少年とドンが写っていた。
ドンとの婚姻届も。

あまりの強烈な体験に、ジェフリーはその夜の夢に見る。


光と闇


翌日、ジェフリーはサンディにすべてを話した。

ドロシーの旦那ドンと息子ドニーがフランクという男に監禁されている。
ドロシーに性行為を強いる為に。彼女は死にたがっている。
それを阻むために、耳は夫のものだとジェフリーは説明した。

刑事である父親に話すようサンディは言うが、ジェフリーはそもそも違法行為をしているし、証拠がない、と言って拒んだ。

サンディは、ジェフリーと会った夜に見た夢の話をした。
夢の中ではこの世は闇。
それは愛の象徴のコマドリがいないから。
最初は闇だけ。
突然、何千羽ものコマドリが愛の光を持って舞い降りて来た。
その愛の力だけが、闇の世界を変える。

光の世界に。

闇とはフランクがドロシーの部屋を暗くして言っていた言葉だ。

コマドリがくれば悲劇が終わるとサンディは言った。


ドロシー


再び、ドロシーを訪ねてしまうジェフリー。
今度は堂々とノックをすると、ドロシーは招き入れ、素性も知らないジェフリーを好きだと言う。
ジェフリーもそれを受け入れる。

スロークラブへも行き、ドロシーの歌を聞いていると客席にフランクを見つける。
フランクは感動しているようだった。
手には青いベルベットの切れ端を持っている。

店の外は店名のライトで赤い世界になっている。

店からフランクと仲間達が出てくる。
ジェフリーは車で後をつけて、フランクの家を見つけ監視する事に。


サンディ


翌日、ジェフリーはサンディとの待ち合わせに遅れて、サンディの彼氏に車に乗せるところを目撃されてしまう。

一晩中、フランクの家を監視していたせいだった。

ダイナーへ行き、サンディに見た事すべてを話す。

黄色い服の男がフランクと一緒に談笑しながら家に入って行った。
黄色い服の男も、事件に絡んでいるようだ。

その後、黄色い服の男はワニ革のカバンを持つ男と会った。
2人は工場へ行って、階段から遠くを見ていた。
視線の先は起きたばかりの射殺の現場。
被害者は麻薬の売人。

警察が大量の麻薬を発見すると話していた。

信じられないと驚くサンディ。

「隠されていた世界を見た。
不可解な謎の真っただ中に僕はいるんだ。
秘密の中に」
「謎が好きなのね」
「ああ。
君も謎だ。好きだよ」

ジェフリーはサンディの隣に移りキスをした。


隠されていた世界


サンディに告白したというのに、ジェフリーは夜になるとまたドロシーのアパートに行った。

ドロシーは「悪いことしたい? 私をいじめて」と言う。
ジェフリーは君を助けたいんだ、警察に家族の誘拐の事を話せというがドロシーは怯えるだけだった。
ろうそくの火はジェフリーの心を映しているのか、言う事を聞かないドロシーを結局ジェフリーは叩いていた。
当然、叩かれるとドロシーは悦ぶ。
いつしか、炎は大きくなっていた。

事が済むと自分は正気だから嫌わないで、というドロシー。
ジェフリーを見送ろうとすると廊下でフランクと鉢合わせになってしまった。

フランクは見知らぬ青年の存在に怒り出し、2人を車に乗せた。


ベン


フランクはドライブだといい、無理やり2人を乗せてベンの所へ連れて行った。
その家にはオカマのベンと太った中年女性が数名居た。

ベンとフランクは隅に行き、ひそひそ話をしたので聞き耳を立てた。
ゴードンが真昼間に乗り込んでよ。
ヤクを全部巻き上げた。

その後フランクは「眠りの精はお菓子のピエロ」をリクエストし、ドロシーにはガキに合わせるといった。
ベンの家に家族が監禁されていたのだった。

ベンは、ライトのついたマイクで顔を照らしながら口パクをした。
フランクはまたしても歌に感動して泣き出すと、途中でテープを止めて、ドライブの続きだと引き揚げた。

ベンがライトを消すと、暗闇だ、とフランクは言った。


車の中で、フランクは些細な事でドロシーとジェフリーの関係について怒り出し、マスクを取り出す。
興奮しだしたフランクに、ジェフリーは思わずやめろ! と後部座席からパンチを浴びせた。

フランクは怒ると、車から引きずりだし、何故かドロシーの口紅を自分に塗ってからジェフリーにキスをした。

また「眠りの精はお菓子のピエロ」を部下にかけさせる。
生きてるだけで運がいい、といいジェフリーを脅すと、女にかまうなと行って殴りだした。
その前に、ベルベットの生地でジェフリーの口を拭いてから。

ろうそくの火が風で消えた。

翌朝、地面で目覚めた。
顔には大きなアザが出来ていた。

ドロシーを叩いている自分を思い出す。

ジェフリーは泣きだした。


ゴードン


もう手に負えない事を認め、サンディに断りを入れてからすべてをウィリアム刑事に話す決意をした。
サンディの事は伏せて。

警察に自分で監視した時に撮影した写真を持って行くが、そこで黄色いジャケットの男がデスクに座っているのを見て、思わず後戻りをする。
名札にはゴードンとあった。

刑事も絡んでいたのだった。

夜になって、直接サンディの家に話に行った。
ウィリアム刑事は、フランクと一緒に写るゴードンの写真を見て驚いていた。

きっぱりと手を引く事を誓って、ウィリアム刑事にすべてを託した。


三角関係


数日後の夜、ジェフリーはサンディとパーティに行く為に迎えに行った。
そこには偶然、ゴードンの姿もありジェフリーは怯えるが、ウィリアムに落ち着くよう言われる。

2人はパーティに行って、恋人同士である事を改めて感じていた。
パーティーを出ると、1台の車が後をつけている事に気づいた。

フランク関連かと思いきや、家の前につくと、それはサンディの元彼のマイクと友人だった。
サンディを奪った恨みを晴らしに来たのだった。
だが、もみ合う直前にジェフリーの家の庭から、全裸で血のついたドロシーが幽霊のようにふらふらの足取りで出てきた。
マイクらはすっかりびびって退散していった。

サンディとジェフリーはドロシーを保護し、一度ドロシーの家に連れて行く事に。
ドロシーはジェフリーを認識すると、裸で抱き着きただの知り合い以上の関係を感じさせるようにしがみついた。

その光景にサンディは泣き叫ぶ寸前だった。
ドロシーは救急車で運ばれていった。


サンディはショックを受けてはいたが、好きだからと電話でジェフリーを許した。
サンディはその後、父親に連絡を取ろうとするが、出先が分からないと言われてしまっていた。
ジェフリーはドロシーの部屋に向かった。

まだ持っていた合鍵で部屋に入ると、ゴードンと椅子に縛られた耳の無い男がいて驚く。
だが、座っている男はもちろん、立ったままのゴードンも頭から血を流して死んでいるようだった。

ゴードンの黄色いジャケットのポケットには警察無線が入っており、そこから声が響いた事に反応したのか、腕が動いてスタンドの傘を飛ばして倒した。
無線では、ウィリアム刑事がフランクの自宅に踏み込む準備ができたと言っている。
そして銃撃戦が始まる。

ジェフリーは、異様な光景ではあったが「後は警察の仕事だ」と呟くと部屋を出た。
階段を降りるとき、アパートにワニ革のカバンの男が入ってくるのが見えた。

ジェフリーは再びアパートの階段を上り、ドロシーの部屋に戻った。
ゴードンの無線をとってウィリアム刑事に連絡をした。
ドロシーのアパートに居る。フランクが変装して来ると。
しかし、フランクもまた無線を聞いてるかもしれないと気づく。
わざと無線で寝室に隠れるといって、クローゼットに隠れた。

狙い通り、俺も無線もってるんだよ、と言いながら変装したフランクが来た。
変装を取り、寝室へ向かう。
「無線の音でわかるんだよ!」

寝室へ行った隙に、ゴードンの銃を奪い、ジェフリーを探す為にクローゼットを空けた瞬間のフランクを撃った。
そこにサンディとウィリアム刑事が間に合った。

終った。

部屋のライトが消えた。


この世は不思議


眠るジェフリーの耳がアップになっている。
目をあけるとジェフリーは庭でうたた寝をしていたようで、木にとまるコマドリが見えた。

闇が終わった。

サンディに昼食だと呼ばれて家に入る。

ジェフリーの父親も退院しているようだった。
2組の家族が一緒にいた。
キッチンにもコマドリが。

コマドリの口には虫が咥えられていた。
光が闇を覆ったのだ。

この世は不思議な所ね、とサンディが言う。


冒頭と同じ、白いフェンスに鮮やかな黄色い花、手を振る消防士、赤い花。

三角帽の子供がはしゃいでいる、その先にはドロシーがいた。


おしまい

かんそう:


80年代の作品というイメージの中では、洗練された映像に今見ても驚きました。
リンチ作品は好きですが、本作は久しぶりに見て昔に見た時の印象と大分変った事にも驚きました。

やっぱり大人になったのかな!w

特に本作は、想像していたよりもかなり普通のサスペンス・ドラマでした。

リンチといえば、良くわからなくても仕方ない、というようなフィルタが自動でかかるようで、何もかもが意味不明って思い込んでしまっていたようです。
もちろん作品にも寄りますが、本作はリンチ作品の入門にちょうどよいようにも感じました。


・リンチの、リンチらしいと今になって思えるような要素がしっかり見られる。
 個性的なキャラ、象徴的なイメージカット(炎、虫、コマドリ等)、音楽の使われ方等。
・だけど、ストーリーが、一応しっかり完結している。



ちょうどツインピークスから25年という事で、ツインピークス The reurnの放送が日本でも始まり、ちょっとしたツインピークス祭りになっている今日この頃ですが、同時に映画監督としての引退も表明されています。
残念ではありますが、その分ドラマに集中するという事でしょうかね。
ドラマも視聴率という結果を残さねばなりませんが、映画よりは幅が広く監督でも好きにやれる余地があると言う事なのかな。
私は環境的にThe returnを見るのはまだまだ先になりそうですが。


本作も公開当時は、特にドロシーの設定にかなりネガティブな反応が多かったようです。
でも最終的には名作と言われているのには、やっぱりどこかわかりやすいストーリーのお陰もあるのではないかな、と思いました。

理解出来ないものって、どこまでも不安がつきまといますからね。
でも、リンチ自身にとってはそれでは物足りないのかもしれません。


実は、映画のあらすじと感想を残してはいますが、リンチの作品はまずあらすじに起こす事が難しいだろうと思って、好きな作品ではありますが敬遠していました。
本作も見直しはしても書けないだろうな、と思っていたんですが、意外とフツーだったw
とはいえ、映画のあちこちにちりばめられた意味ありげなカットをすべて攫うのは難しいので、大分端折ってはいます。
その辺はやっぱり見て楽しむものでもありますしね。

自分が気になったのは、ジェフリーがドロシーの家を訪ねると赤いカーテン(ベルベット)が揺れるカットが入る事でした。
最初はそこに誰かいるのかな、とか思ったんですが、あれって「昼ドラの花瓶の花が落ちる」のと同じ役割……、なんだろうな、と思いましたw
ジェフリーとドロシーの関係を現していたんだろうな、と。

ツインピークスはちょうどこの作品の後に手がけられていますから、その下地的な雰囲気も多く感じられると思いました。


ジェフリーが大学へ行っているだけなら、知らないままに終わった裏社会。
でもそれは自宅のある町での出来事。殺人、誘拐、麻薬、倒錯、性癖等々。
それに気づき、垣間見るだけではなく自分もドロシーを叩く事で、闇の部分を持つと気づかされてしまう。

でも、サンディがジェフリーのコマドリとなり、それを引き留め、闇から光の世界へ連れ戻した。

ドロシーもまた息子を取り戻してる。

しっかりハッピーエンドというのも、それがコマドリに例えられているというのもなんとも可愛らしいんです。


今更かもしれませんが、リンチ監督って、カイル・マクラクランもローラ・ダーンも自分に似てるからお気に入りなんじゃないのかな、とカイルが歳を重ねた事で、気づきましたw

自覚があるかどうかはさておき、人は自分に似た顔を(見慣れているから)無意識に好きになるというのはあり得ますよね。





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