2016年6月21日火曜日

鑑定士と顔のない依頼人



映画 (Movie) / 鑑定士と顔のない依頼人 〔DVD〕

 2013年作品

イタリア

ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・フークス、ドナルド・サザーランド

あらすじ:潔癖症で人付き合いも苦手だが、鑑定士としては名声を持つ主人公。
普段は自分で取らない依頼の電話を、誕生日だからと取ると・・・。




予告で気になっていましたが、ジャンルがミステリーという事が決め手になりました。

面白かったですけど、ミステリー以上に「お年寄りをいじめて・・・」という事のほうが気になってしまいました><

【おはなし】

ヴァ―ジルは、オークショナ―としての評判も高く、世界各地から声がかかるほどの成功している鑑定士。

だが、旧友のビリーと組んで自身のオークションで価値のある作品を格安で手に入れていたり、自分に都合のよい鑑定をする等、裏の顔もあった。

そんな犯罪の片棒担ぎのビリーは、画家であったが、友人であるヴァ―ジルが厳しく評価をした為に、画家としてはぱっとせず終わっていた。

変わり者のヴァ―ジルは、美術品には素手で振れるのに、普段は手袋をしており、食事中も外さない程の潔癖症。
お気に入りの高級レストランには、彼のイニシャルの入った専用食器が用意されてあるほど。

当然、恋人もいない。

唯一の楽しみは、ビリーと共謀して集めた女性の絵を飾った隠し部屋で過ごす事。

現実の女性との接触はないが、絵画の女性には惹かれる故か、年老いても見栄っ張りで、数えきれない程の手袋を所有していたり、白髪を染めてもいた。


ある日誕生日を迎えたヴァ―ジルは助手に乗せられて普段は取らない職場の電話を自ら取る。
すると、鑑定依頼の電話だったが、忙しく興味をそそられないという理由で助手のふりをして断る。

「両親が死んで残った屋敷にある美術品の鑑定を頼みたい」

という事だったが、ヴァ―ジル本人で、という希望だった。

あまりのしつこさに、出向く事にするが、その割には、待ち合わせに来なかったり、次は使用人しかいなかったり、とヴァ―ジルをばかにしているかのような態度だった。

理由は、事故にあった、車を盗まれたなど、1度なら信じられるものでも続くとただでさえ、社交性にこらえ性のないヴァ―ジルはキレて、鑑定を拒否する。

だが、何度も会社にかかってくる電話に助手からも「入院していたそうです」と言われ、また引き受ける事に。

そうこうしている内に、実はこの依頼人クレアは、「広場恐怖症」という病気で、人前に出るのが苦痛で、ヴァ―ジルと顔を合わせる事ができず、屋敷の中の隠し部屋に居る、という事がわかる。

さらに、ヴァ―ジルを面倒な客だからと拒否しきれずにさせていたのには理由があって、この屋敷の中で拾った機械の部品の存在があった。

以前から機械関係では頼りにしていたロバートという若い職人に見せてみると、その部品に興味を持った。
ほこりのカブリ方が不自然だという違和感もあったが、ヴァ―ジルは最初から気づいていたのかどうかわからないが、それは貴重なオートマタ(機械人形)の一部かもしれない、というのだった。本当ならいくらになるかもわからない、という。
そして、ロバートなら部品さえあれば再現する事ができる、むしろ、やりたい、と乗り気になる。

ロバートに入手方法を言えないまま、ヴァ―ジルは部品をこっそり持ち出す為に、あの屋敷に出入りする目的が出来てしまったのだった。

こうして、姿を見せない依頼人クレアとヴァ―ジルは、壁を隔てて会話をし鑑定を続けて行く事になる。

ある時、人前に出るのが怖い事と、手袋を外せない潔癖症は、どこか共通している、と言われる。
その事がきっかけになったのかどうかわからないが、ヴァ―ジルはクレアを見てみたいと思うようになる。

ドアの音だけさせて、帰ったと思わせて大きな像の影に隠れてヴァ―ジルはクレアをのぞき見た。

すると、病人とは思えない、若くて美しい女性だった。

そして気が付けば、クレアが気になり、気に入られたくなっていたのだった。

女性とのつきあいなど一切なかった上、親しい友人もビリーくらいしかいないらしいヴァ―ジルは、機械を渡すついでとはいえ、職人のロバートに友人の話としてクレアの恋愛相談をする。

女性の出入りが激しいモテ男ロバートは、ヴァ―ジルの話だとわかった上で相談に乗る。

クレアの電話内容から、「自分に恋してるわけがない」と思われている事を知ると、どうしたら相手に意識してもらえるか、等々。

ヴァ―ジルは、恋と若き友人を手に入れ、初めての青春を味わっているかのようだった。

クレアに「白髪を染めるなんて」と言われると素直に白髪に戻し、クレアを心配して食糧を買って行く、苦手だと言っていた携帯電話を持ち出す。

クレアは病気の事もあり、時折ヒステリックになる事があったが、それでも後悔してヴァ―ジルに謝りを入れてくるなど、クレア自身もヴァ―ジルが特別な存在になりつつあることを認めていた。


そして、とうとう2人は顔を合わせられる関係になっていく。

そうなるとヴァ―ジルの想いは高価なドレス、化粧品、プレゼントとして溢れて行く。


ある日、ロバートは、自分もクレアを見てみたいといい、ヴァ―ジルはこっそりロバートを屋敷に侵入させる。

だが、その後、ロバートがどうやらクレアに夢中になってしまったらしい、とロバートの彼女から聞かされ、嫉妬に狂い、仕事途中のオートマタを返却させロバートと縁を切ろうとする程だった。

ちょうどコレクションのリストが出来、クレアに見せると1つ足りない、と言われる。
内心、オートマタの事か? とドキっとしたかどうかはわからないが、すると今まで禁断の聖域とされていた隠し部屋に招待される。

そこに、「父が大事にしていたもので何かはわからない」とガラスケースを見せられるが、それはオートマタの大部分であった。
だが、今更何も言えないヴァ―ジルは「貴重そうだが、何かわからない」と誤魔化してしまう。


思いがけず大量の部品が見つかった事から、ロバートを訪ね謝るヴァ―ジル。
仕事の依頼も再開するが、ロバートからの条件は、私生活に巻き込むな、という事と、小切手の返却だった。
オートマタの再現はロバートにとって金ではないのだった。


プロポーズを決意したのか、クレアに高価な指輪を買って屋敷を訪ねると、クレアの姿はなかった。

向かいのカフェで聞き込みをすると、公園のほうに出て行ったのを見たと言われる。

使用人、ロバートと知り合いを総動員して探すが見つからない。

そうこうしているうちに、ヴァ―ジルはオークションに遅刻した挙句、ボロボロで笑いものになってしまう。


初めてビリーにクレアの事を話す。
あのオークションでの失態には女性が絡んでいたとわかり驚くビリー。
誘拐であれば、ロバートが怪しいととちくるったヴァ―ジルは言い出す。
ビリーは「姿を消す理由があったんじゃないか?」という。
そんなはずはない、というヴァ―ジルにビリーは言う。
「人の感情は美術品と同じ。偽造できる」と。

夜、ロバートから屋敷にまだ他に部屋があるんじゃないか、と電話がかかってくる。

使用人を伴い調べると、屋根裏部屋がある事がわかり、そこでクレアを見つける。

クレアは、過去の恋人との出来事、広場恐怖症になったきっかけのトラウマに囚われているようだった。
プラハで年上の恋人と事故にあい、恋人だけが死んだのだという。
その後、家に戻った以降、外に出なくなったという。

初めて女性と一晩を過ごしたヴァ―ジル。

その喜びを報告するロバートとも完全に関係修復できたようだ。

そして同時にオートマタもほとんど再現出来ていた。

ふと、ビリーとの会話を想い出し
「愛は偽造できるか」と問う。

贋作の中にも本物があるなら、偽りの愛にも本物があるのでは、とロバートは答える。

クレアを外に連れ出したくなるヴァ―ジル。

ある夜、屋敷に向かう途中で暴漢に襲われる。

それを見ていたのは向いのカフェの常連女性で、通報をする。

ヴァ―ジルはボロボロになりながらクレアに連絡をする、と恐怖症であるはずのクレアが倒れているヴァ―ジルを見て外に飛び出る。

これがきっかけでクレアは自然と外に出られるようになっていく。

そして、クレアはヴァ―ジルの家で同棲するようになる。

他人を信用していなかった自分をおろかだと言えるようになったヴァ―ジルは、信頼の証としてクレアを隠し部屋に招待する。

まさに、新しいクレアの隠し部屋にもなるのだった。

クレアはそこで壁一面の女性の絵画を見て、圧巻される。

ヴァ―ジルは、恥ずかしげもなく、「過去の女性はこの絵画だけで、君の登場を待っていた」と言う。

ロバート・カップルとWデートで食事までするようになり、クレアの依頼した競売用のカタログも完成した。

だが、クレアは生活の安定が約束されたせいか、「やっぱり売るのはやめようと思う」と言い出した。

ヴァ―ジルは、「自分でも同じ事をする」と受け入れ、カタログを破り捨てる。

そして、次のオークションで引退する、と発表する。

まだ、オークションに出向く程ではないクレアは電話で応援する。

無事、オークションを終え、ビリーとの共犯も自然消滅となる。

会えなくなるというビリーに「いつでも会えるだろ」と言うヴァ―ジル。

「君が信じてくれたら偉大な画家になれた」と最後まで言い、絵を送ったというビリー。

家に帰ると、またしてもクレアの姿がない。

メイドは、最近よくロバートたちと出かけるという。

クレアの母を描いたという肖像画を見つけ、それを置くために隠し部屋に行くと、ヴァ―ジルは茫然とする。

すべての絵がなくなっていたのだった。

そして完成したオートマ―タだけが置かれ「いかなる贋作の中にも本物が潜む」「会えなくて寂しいよ」
と繰り返していた。


その後、ヴァ―ジルは向いのカフェであの屋敷にいたクレアは偽物で本物のクレアは、いつもカフェにいた女性である事を知っていたのだった。
持ち主であるが、住居とはしていなかったので、レンタルしていたのだという。
異様に数字に強い彼女は、カフェに座り屋敷に出入りする人間の数をカウントしていた。
そのことから、偽物のクレアは広場恐怖症でもなんでもない事がわかる。

ロバートは、屋敷のリフトを依頼したきっかけで、あの屋敷を借りる事になった。
そして、ヴァ―ジルをだます為に、使用人、偽のクレアが用意されたていたという事を知る。

ロバートの店ももぬけの空になっていた。

さらに、ビリーも一味で、彼女の母を描いたという肖像の裏には、ビリーのサインがあった。
ビリーを否定していたのに、その絵に惹かれたという事実もあったのだった。

ヴァ―ジルはすっかりしょぼくれて、ホームのようなところに居たが、その郵便が来たからと、執事が届けに来たのをきかっけにリハビリをする。

そして、ビリーの描いた絵を持ってプラハに行く。
クレアが話してくれた思い出のレストランの席に着くと、店員に聞かれ答える。

少し考えて返事をする、「連れが来ます」と。

おしまい。


【かんそう】


ミステリというジャンルにも惹かれましたが、見始めてテンションあがったのは、ゴージャスな美術品の溢れる世界観でした。

ヴァ―ジルというおじいさんは、見る目は本物なんでしょうが、本物故に神になった気分になってしまうんでしょうかね。
相場をコントロールしてあくどく儲けています。

中には、自分のコレクションにしているので、安く手に入れたという感じで実際に儲けてはいないのですが、相棒であるビリーにボンボンお金を渡したり、家の豪華さなどから、金回りが良い事は確かです。

また依頼人の家からゴミ同然とはいえこっそり機械の部品を持ち出してしまう、というのもただのドロボーです。

そんなヴァ―ジルが、友人とその仲間に? 詐欺の対象となり財産の一部をだまし取られたのですから、全面的に同情するのは難しいです。

序盤は、ミステリーというよりは美術ドラマといった感じが濃く、このまま大したミステリーじゃなく終わっても、悔いはない、と思って見ていました。

途中、クレアという美女の登場で、お話しは老人の恋、になります。

この辺がある意味一番きつかった、ですね。

クレアは広場恐怖症という病気で、人前や外に出る事が出来ず、屋敷に籠っているひきこもりなのですが、27歳で美女。
しかも、職業は作家で、どうやら書店でも売られているようです。
だから、仕事の電話がかかってくるとフツーにしゃべっています。

もちろん、この設定自体が、劇中劇というか、作り物なので、違和感を覚えるのは当たり前、でもあるんですよね。

そう考えるとミステリーらしく、ややこしい。

でも、恋を知らないおじいちゃんには違和感も何もない。

初めこそ無礼な奴! とキレる事はあっても、疑う事はなく、クレアとの不思議な関係にのめり込んでいきます。

思い起こすと、ヴァ―ジルへの警告も何度かあったんですよね。

機械の部品を初めて見つけた時に埃の違和感、ビリーの「人は偽れる」など。

でも、欲が邪魔をしてそこだけは鑑定が狂ったままで進んでしまった。


最初はロバートとヴァ―ジルの歳の離れた友情って、微笑ましくてこの作品でのオアシス的な役割をしていたんですけど、これも目的があったと思うと、ゾっとしますね。

屋敷は、2年借りられていたという事なので、2年越しの計画とも言えます。

ビリーは絵の才能を認められなかったけど、ロバートは職人としては本物なので、ビリーがロバートをスカウトしたのか、もともと友人なのか・・・。
その辺は作中ではわかりませんでした。

どんでん返しなので、「え、そこに接点があったの?」とならないとつまらないですもんね。

でも、美術界という事でつながりはあったんでしょうね。

ヴァ―ジルを落とし入れるきっかけは、ビリーの長年の恨み(才能を認めてくれなかった)と、ヴァ―ジルの隠し財産(集めた絵画)だと思いますが、悪い面だけではなく、見方を変えればそれしかなかった老人に、最後、夢を見させた、という事にもなります。

なので、これもニュアンスは違えど「同情」にはつながらないんですよね。

ともあれ、すべてをわかって2度目見たら、いろいろ気づいて面白いタイプの作品だと思いました。
言い換えると、1回目はセリフなども、「ん? なんでこんな事言い出す?」とわかりにくいとも言えますが。

進行のすべてが、テンポよく、誰に都合よく起きているか、それは、仕組まれていたからこそなんですが、綺麗にわかりますよね。


とはいえ、ビリーが復讐を考えずに、同じ生活を続けても、いつかは孤独に老人ホームに入っていたんだと思います。

そこから、発起して、リハビリして待ち人を待つという生活に導いたのは、この詐欺のおかげ、とも言えます。

むしろ、ビリーはコンビ解消のはなむけに、ヴァ―ジルに味わう事を拒否していた青春をプレゼントしたような気がします。
まるで、ヴァ―ジルがビリーをコントロールしていたようで、その逆だったような。(もう引き際)


そして、長年ヴァ―ジルと組んでいたビリーだからこそ、ヴァ―ジルの趣味を知ってて、クレアという女性を用意したのではないか、と。

あくまでも自分に都合よく解釈すると、クレアは雇われた役者のようなもの。

だから、「何があっても愛してる」と隠し部屋で言った言葉はウソではない。

それに、いくらお金の為とはいえ、老人と・・・って思うよりは、クレアは最初は引き受け仕事だったけど、本当にヴァ―ジルにほだされて行ったと考えたほうが、気持ち悪くないですw

ロバートがヴァ―ジルの報告を聞いて、「惚れられたな」と言ったのは本音かもしれません。

ロバートは、ヴァ―ジルに恨みはないけどお金は欲しい、という感じでしょうね。
そして、恋が本物になる事は計画を成功させるには、悪くはないです。

ただ、詐欺にかけたヴァ―ジルにクレアが再会する事は、ビリーやロバートにとっては危険行為になるので、ほとぼりが冷めるまで時間をかけたのだと思います。


そんな詐欺が明らかになった以降は、急に時系列が入り組むので、ミステリタッチぽくなり、ちょっとわかりにくいです。

老人ホーム? のぼけぼけな感じと、多分入る前に事実を知る為に走り回るヴァ―ジル。

そして、ホームから再生しての新生ヴァ―ジル。

ここをどう読み取るか、人によって違いが出そうですし、そういう風に作ってあるんだな、と思いました。


ラストのレストランで、「連れが来ます」は、じじいの願望とか、ヴァ―ジルはどう転んでもただの見栄っ張りだった、とか、いろいろ考えられますが、正直、自分はこういうのハッキリして欲しい派です。

この終わり方ならば、もう詐欺られたー、ヤラレター、で終っても良かったな、と自分の好み的にちょっと思ってしまいました。からっと。

でも、この後日談がドラマとしての深みになっているんでしょうね。

単なるミステリではなく、ドラマとしての見ごたえ、なんですけど、何せ主人公が嫌な奴ではありながらもおじいさんですから、いろんな先入観を持ってしまえるのが、ちょっと見ていて邪魔でもありました。

見方を変えると、男性にはすごく夢のあるストーリーなんですけどね。

将来、金と権力があれば、若い女性も手に入るかもしれない、と。

まあ、あくまで映画ですから、本当に夢であって、現実には・・・。

これを信じたら怖い、です。

そういう意味であのラストは、見る人が好きに解釈して落としていいのかもしれませんね。

美術やからくりが素敵で、良い作品で私は気に入りましたが、老人をだます・・・の1点がどうしても、エンタテインメントではなく、ニッチなインディ臭がして、モダン・カルトとも言えるのかもしれないですけど、お勧めしずらいのが残念でした。

ある意味耽美か。

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