2016年5月19日木曜日

マッチポイント



映画 (Movie) / マッチポイント 〔DVD〕

2005年作品

監督ウディ・アレン

ジョナサン・リース=マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン、マシュー・グッド、エミリー・モーティマー

あらすじ:テニス選手としてパっとせず、潔くコーチに転職したクリス。
運に左右される人生なんて、落ち着かないと思っていたが・・・。




結構、後味悪い系と言える気がしました。
ウディ・アレン作品としては、ほとんど笑う所がなく、シリアス・タッチでした。

【あらすじ】

アイルランドからロンドンに引越し、テニスプレイヤーから、コーチへと転職したクリス。
育ちは貧しかったが、オペラ、文学など教養は身に着けており、いつかは何かを成し遂げるという、漠然とした野望を持っていた。

あくまでもコーチは足掛けにすぎないと思っていたが、幸先がよく、生徒として上流階級のトムと出会う。

何かを嗅ぎ取ったのか、レッスン後の会話で「オペラのCDを買いたい」とトムに言うと、トムは「父が出資してるから」とオペラのボックス席に誘う。
同年代でオペラ好きという所が気に入ったのだが、そのオペラの後、トムの両親にお礼の花を送り、両親にまで気に入られる。
そして、トムの妹クロエに一目ぼれされたようで、休暇の別荘にも誘われる。

そこでは、トムの婚約者、ノーラ(ヨハンソン)にも出会う。
アメリカ人のノーラは女優の卵だけあって、セクシーな美人で、クロエとは正反対の雰囲気を持っていた。

クロエは、いかにもお金持ちのお嬢様らしく、取り立てて問題がある訳ではないが、クリスにとっては面白味はなかった。
が、金持ちの娘に言い寄られて断る理由はなかったのだが、ノーラに惹かれているのは明らかだった。
だが、友達の婚約者だから何か出来る訳でもない。


別荘で会った後、彼女の母親は、疑り深く、クリスが何かの目的を持って近づいてきているのではないか、と忠告するとそれが逆効果となり、クロエはだったら父の会社で働かせたら、と話が突飛な方向に行く。

そして突然、クリスに「父の会社で働かないか」と言うが、最初こそ、クリスには何のビジョンもなかったので、戸惑う。

だが、Wデートのメニューを決める際、金銭的な価値観の違いを見せつけられたせいか、トムとノーラの関係が崩れないと感じたせいか、結局クロエの父親の会社に転職をする。

もともとセンスがあったのか、クリスはクロエの父親に気に入られる働きをして、昇進を約束される程。

ある日、ハイソな生活になりつつあるのか、クリスがラルフ・ローレンで買い物をして店を出ると、オーデションに行く途中のノーラとばったり会ってしまう。

そのまま、不安だというノーラにつきそい、オーデションが終わった後、やけ酒に付き合う。
そこで、酔ったノーラが明らかに誘惑をしてくるが、何もなく終わる。

また別荘で家族が集まるが、そこでクリスの母親が、元から嫌っていたノーラを酔った勢いで、責め始める。いつまで売れない女優をやっているのか、と痛い所をついてきたのだった。

傷ついたノーラは、雨の中1人になりたい、と屋敷を出るが、それを見ていたクリスは後を追いかける。

そして、2人きりの野外で関係を持ってしまう。


何事もなかったようにロンドンに戻るが、クリスはノーラが自分を避けている事を責める。
ノーラは、あれは終わった事だ、と冷たくあしらう。

それがきっかけなのか、生活はまた変わり、一度は拒んだビジネススクールへ行く条件つきの昇進を受け、運転手を待たせてカルティエで買い物をして出てきたところを、クリスの旧友に出会う。

まだテニス選手をしているという友人と会った事で、自分の生活レベルが上がった優越感を味わえたようだった。

ノーラのつれない態度とそんな出来事がきっかけになったのか、クリスは両親にも気に入られ、勧められるまま、クロエと結婚をする。

新居は当然、父親が用意した豪邸。
新妻はさっそく赤ちゃんをねだってくる。

一方、トムが落ち込んでいるので声をかけると、「ノーラと別れた」という。
だが、同時にすでに新しい恋人もいる、と聞かされ、その相手はノーラと違い、母親も気に入っているのだという。

その話を聞いて、クリスはノーラに連絡を取るが、すでに引越した後だった。

そして、トムも結婚をする。

しかも、すでに相手が妊娠している事から、なかなか妊娠できないクロエは焦る。

そんなある日、クロエと会うために美術館(テートモダン)に行くと、そこでノーラと再会する。
実は、ロンドンに戻ってきていたのだった。
こっそり電話番号を聞き、たちまちノーラと浮気を始めるクリス。

そして、のめり込んだ勢いで「離婚する」と言ってしまう。

最初は、クールに見えたノーラだったが、実はバツイチ、堕胎の経験などから、クリスとの関係を本物にしようとし、次第に電話の回数が増えていく。

携帯ならまだしも家電話にまでかけてきて「会いたい」というようになり、クリスにとってうっとうしさも増してしまう。

それもそのはずで、妊娠してしまったのだった。

妻はなかなか妊娠しない所に、浮気相手が妊娠してしまったので、クリスは堕胎をすすめる。
だが、ノーラは離婚すると言った言葉を盾に、「産む」の1点張り。

さすがになんとかしようと思って、クロエに告白しようとするが、クロエの方から「浮気してるんじゃないのか」と言われ「していない」といってしまう。
だったら何なのか、と言われると「妊娠しない事」の体で「罪悪感がある」など気持ちを吐露する。

そして、先日再会した旧友に相談をする。
それは正直な想いで、
恋人がいて、離婚したい。
だけど、お金持ちの生活も捨てがたい。
離婚したら、今のぜいたくな暮らしは維持できない。
妻への愛と、恋人への愛は、違う。

すると、話しを聞いた友人が「恋人のために全てを捨てる事はない」という。

ノーラには、3週間旅行に出た後で妻に言う、と伝える。
先延ばしにするクリスにノーラは怒りをぶつける。

ところが、旅行は延期になるが、その事実をノーラに伝えようと電話をすると、クリスは無言で切ってしまう。

旅行に行っている体で、その間ノーラから逃れたいのだった。

悪い事はできないもので、街にで買い物している所をノーラに目撃される。

完全にウソをつかれているとわかったノーラは、クリスの会社まで押しかけ、クロエに暴露してやる、と暴れる。

なんとか落ち着かせてケリをつけると約束するが、すでにノーラは邪魔な存在でしかなかった。

クロエの父親の猟銃をこっそりラケットケースに入れて持ち出し、ノーラの隣の家の老女を殺し、そしてノーラの帰宅を待って、玄関先で撃ち殺した。

元々治安が悪いといっていたので、ドラッグがらみの強盗に見せかけた。

翌日、ノーラが殺された記事で、家族は大騒ぎになるが、殺害後、妻とミュージカルの約束をし、アリバイを作っておいたクリスは余裕だった。

さらに、この朝、クロエの妊娠が発覚する。

ところが家族でその発表をしていると、クリスは警察の事情徴収に呼ばれる。

慌てて、強盗を装う為に盗んでいた老女のアクセサリーなどを海に投げ捨てるが、その時指輪が1つガードにあたって地面に落ちてしまっていたのには気が付かなかった。

何故自分が、と思うと、ノーラは日記を書いていてそこには、クリスとの出来事が綴られていたのだった。

実は浮気をしていた、と認め、ただ家庭を壊したくないから、配慮をして欲しいと刑事に伝える。

ドラッグがらみだと思われていたから、猟銃を調べる必要はないとされていたが、その夜担当刑事が、クリスが犯人じゃないか、とひらめく。

ところが、それを同僚に伝えると、「昨夜、またドラッグがらみの殺人が起きて、被害者のポケットから老女の結婚指輪が出てきた」と言われる。

刑事は、「クリスが捨てた指輪を売人が拾ったとしたら?」と自分の推理にしがみつこうとするが、同僚に「夢の話」と軽くあしらわれて終わる。

そしてクロエは無事出産する。

クリスはまた出世したようで、トムに「運のいいやつめ」と言われる。

第1子を迎えて乾杯する家族の輪の中には入っていないクリスに、妻クロエが言い寄る。

2人目は女の子がいい、と。

おしまい。

【かんそう】

スポーツの持つイメージは正々堂々とした勝負、だと思いますが、本作では、そんなスポーツにも運の要素がある、と言うメッセージから始まります。

というか、この世に運の要素のないものなんて、ある意味存在してるのかな、とも思えるのですが。

ただ、運を味方につける、とか運も自分次第、とか、そう考えるのではなく、あくまでれっきとした「運」の事を言っているんでしょうね。

クリスは、多分、それまではあまり運が良い、とは言えなかったんだと思います。

分不相応、と言ってしまうのは乱暴ですが、オペラに文学、というそれまでのクリスの生活では、分かり合えるような友人はいなかった気がします。

ところが、ある意味潔く、テニス選手としての自分の資質を見極め、向いていないから、とコーチに転職し、一般的な夢を捨てた途端に、運が向いてきました。

でも、クリスは「運に左右される人生が不安でいやだ」と言っていたので、その流れは本人の意図とは正反対なんですよね。

まずはコーチでもして、地に足のついた生活を得よう、としたら、むしろ上流階級のお友達が出来て、それ以来ずーっとふわふわしっぱなし。

運を敬遠していたのですから、すぐに飛びつくような事をしなかったのも、結果的には良かったんでしょうね。
先にトムとつきあっていたノーラは結婚なんてとんでもなく、付き合う事すら歓迎されず、結局追い出されてしまったのに比べ、クリスは狙っていたのかいないのかもはっきりわからないまま、家族の一員として迎えられ、仕事や住む場所はもちろん、株で大損したと聞けば、すぐに養父が援助してくれる、という贅沢な生活を手に入れた。

それこそ、ノーラが欲しかったものだったと思います。

ノーラはトムはハンサムだと認めた上で、さらに財力に負けたと認めていますから。

そして、ノーラは運が悪かった。

トムとの出会いが人生のピークで、別れてから・・・というか、クリスが登場してから運が尽きているように思えます。
そして、そのクリスに命まで奪われた。

そんな強運の持ち主に思えるクリスですが、ある意味運を否定している男が幸運に恵まれる・・・というお話しなんだろうなー、と思っていたのですが・・・。

実は、最後の最後に思い直しました。

というか、気づくんです。

この話で一番運が良いのは、クロエ、なんですよね。

むしろ、クリスは運を避けていたのに、その運に抵抗する事ができず、巻き込まれ、そして、あまり幸せとは言えない人生を送る羽目になっている。

おそらく、お金の問題さえなければ、ノーラとの人生の方が幸せだったんだと思います。
だけど、クロエが撒き続けるお金、豊な暮らし、に抗う事が出来なかった。

それは贅沢な生活を見れば、成功者と言えるのかもしれませんが、クリスの内面は、ノーラを殺した罪悪感とそして、失った喪失感、これらをずっと抱えて生きなくてはならないのです。

しかも、ときめいたことなど1度もない、妻と共に。

だけど、クロエにとっては、最強の人生になっています。

裕福な家庭に生まれ、何不自由したことがなく、兄が連れてきた男に一目ぼれし、そのまま結婚し、ずっと待ち望んだ子供もできた。
その夫は、両親にも気に入られ、実際父親の会社で働き、これ以上ない絵に描いたような理想の婿。
その前のかけおち騒ぎを起こした彼氏は飲食関係という事で、結婚したところで、クリスとの生活とはまた違っていたはず。

家族にとっても都合の良い婿だからこそ、援助も惜しまない。

もしかしたら、ノーラの死も、クロエにとってはホッとする出来事かもしれません。

形的には、クリスが思い描いた「いつか何か成し遂げるんだ」という漠然とした夢は、豊かな生活と社会的地位という点では叶えられていますが、本当にこれが手に入れたかったのか、疑問です。

そして、ラストのクロエの笑顔。

まさに勝者の微笑で、対するクリスは相変わらずどこかうす暗いままでした。

見ている最中も、ちょっと昼ドラっぽいというか、主人公は男子ではありますが、少女マンガちっくだなー、と感じていたんですけど、クロエが裏ボスだとすると、まさに! なんですよね。

本作では、ノーラとクロエの対比がわかりやすく、うまいなーと思いましたが、ウディ・アレンはヨハンソンが好きなのか嫌いなのか、わからないですねw

なんかいつも可哀想な役回りのような気がしました。

それと、同時に作品的に訴えてきてるわけではないですけど、「やっぱり、つり合いが大事」って思いました。最初のダブルデートのシーンでは、そういう話なのかな? と思ったくらい。

よく、玉の輿に乗りたーい、って女子ならば皆言ってるように思われますけど、よほど運が良くない限り、乗れた所で大変だと思うんですよね。

クリスは逆シンデレラでしたが、その分やりたいのかやりたくないのかわからない、ビジネススクールに通ったり、とやっぱり苦労はしていると思います。

でも、結構ハイソな生活への憧れはあったみたいだから、それに耐えても、運転手付き、嫁の実家の援助付きの生活は手放せなかったんでしょうね。



クロエVSクリスの試合は、クロエがマッチ・ポイントをとったのですが、その影で、ノーラとその隣人が死んでいたりするので、なんとも気味の悪い、嫌な感じが残るお話しでした。


(完全な妄想ですけど、浮気後期は、クロエが浮気してるんでしょ、と気づく程、ガンガン携帯や家電で席を外していました。だから同席している家族もクリスの浮気には、気づいていたと思います。
そして、それがノーラの死の報道と共に途絶えた・・・となると、クリスの相手がノーラであったこと、そして養父ならば、使われた猟銃を見ればわかる、と思うんです。
でも、家族の幸せの為、娘の為には、すべて気づかぬふりをしている・・・。んじゃないか。
そんな薄ら怖さも感じました。)

0 件のコメント:

コメントを投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...