2016年3月7日月曜日

アパートの鍵貸します


ビリー・ワイルダー アパートの鍵貸します DVD

1960年作品
監督ビリー・ワイルダー
ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレイ

あらすじ:ニューヨークのアパートを会社の課長達の浮気の為に貸していた主人公。
その代償に出世をチラつかされていた。

ある日、部長から呼び出されていよいよ出世かと思うと、「妙に人気があるには理由があるはず。過去にもギャンブル絡みで警察行きにした」と脅かされてしまう。

仕方なく、課長達との関わりを白状すると、部長からも部屋を貸すよう頼まれてしまう。

好きな時に部屋に帰れないという、不便は増えてしまったが、出世が確実になったと浮かれた主人公は、以前から気になっていたエレベーターガールを食事に誘う。

だが、彼女は、男性との先約があるといい・・・。




TVで見ました。

いわゆる、名作というのは、タイトルだけは知っていても見た事がないので、大人になった今気軽に見れるのはいいですね。

本作もタイトルから「どんな映画なんだろう」と見る前に少し想像したり。

たまたま不動産屋の手違いで、同じ部屋に住む羽目になって、最初はその不運からお互い当たりが強いんだけど、同居するうちに次第に・・・

って、これじゃ鍵を貸す、にはならないか、とか。

上司が愛人とのあいびきに部屋を貸すが、その愛人の行く場所がないからと、同居を頼まれて、いやいや接しているうちに、好きになってしまい・・・、とか。

やや近い?

って、感じで見たので、純粋に面白かったです。

まず、当たり前ですけど、話は想像と全然違いましたw

上司の不倫の為に、自分の部屋を貸す主人公。

上司は1人ではないので、入れ代わり立ち代わり。

しかも深夜に「今バーでいい女と出会えたから」と電話で起こされる始末。

アパートの住民からは毎晩騒いでいるので、どれだけ女たらしか、と誤解をされています。

それもこれも、その他大勢の平社員からの脱出をぶら下げられているから、という打算もあるので、どっちもどっち、という状態。

でも、本当はそんなに悪い男でもなくて、エレベーター・ガールに最初の食事をすっぽかされるのですが、「先約と長引いたんだろうから仕方ない」とまったく責めない。
携帯のない時代ならでは、ですけど。昔は気が長くないと持たなかったのかもしれないですねー。

好きな相手だから、というのもあるでしょうけど、根はピュアな主人公のようです。


ともかく、いわゆる名作と言われる映画を見るともれなく思うんですけど、お話しが良くできているんですよね。
だから、色あせないし、名作として残っているんでしょうけど、本当に、本作なんて50年以上も前の作品だというのに、むしろ面白さが印象的なくらいです。

毎度同じ事ばかりくりかえしちゃいますけど、派手さや過激さは耐性も出来てしまうでしょうし、賞味期限がどうしてもできてしまいますが、こういった普遍的なドラマというのは、永遠ですよね。

ただ、本作は全面的にベタ褒めするには、ちょっと途中の展開がだるいなーと思う事はありました。

まず、最初に、「アパートを貸してる」事と、出世とその鍵を握る部長の参加、そしてエレベーター・ガールの存在が、ばらばらに存在しているのかと思いきや、さらっと全部がつながるところまでは、テンポも良く、特に部長が部屋を借りたい理由の相手の女性が、「主人公が想いを寄せているエレベーター・ガール」だった、というのが判明した時は、「おおっ」と思いました。

そして、まだそれに気付いていない主人公が、気づくきっかけも、しっかりと伏線があって、しかも観客にもきちんとその意図を伝えてきているのが、良かったです。
分かる人だけが分かればいい、とかそういうつき離しがないんですよね。

それは、部屋を貸した際にコンパクトの忘れ物があって、部長に返します。
すると、その後エレベーター・ガールがそのコンパクトを取り出すんですね。

すごい凝っているわけではないですが、ただ「人から聞いた」とか「見てしまった」とかではなく、間接的に知るのが、味があっていいなーと思いました。
そして、それで主人公はショックを受けて、身を引くんですけど、そのショックさ加減もなかなか大げさですが、それが同情をさそってきました。

それもあって、見事、出世を果たした主人公が、浮かれて「ハット」を買うのですが、その「ハット」もいつか「部屋に置いてある事で、今度は、エレベーター・ガールが部屋の主を知る」という伏線かな? と深読みしていたんですが、部屋を空ける時はハットをかぶっていたので、それはありませんでしたw

ちなみに、シャーリー・マクレーンのエレベーター・ガールはいわゆる不倫なんてするようなタイプではなく、どちらかというと地味だけど男好きがするような、なんとなく昭和の少年漫画のヒロインみたいな感じです。

なので、不倫はよくないと思いつつも、あしらいの上手な部長にまんまと転がされてしまうような、こちらもまたある意味ピュア。

だからこそ、信じていた部長が、実は過去にもあちこち社内の女性に手を出していた常習犯だとその元相手でもある秘書から聞かされた時には、主人公のアパートで睡眠自殺を図ってしまいます。

それが、主人公とアパートとエレベーター・ガールをまた結びつけるのですが、この時にも主人公の人の良さがにじみ出ていました。

同じアパートのドクターを呼び、大事にしたら、彼女の立場が会社で悪くなる(不倫などがばれるかもしれない)と、あくまでかばう。
そして、恋敵でもある部長に電話までする始末。
アパートのドクターは、「女ったらしだから、部屋で自殺されるんだ」とますます主人公のダメ男さを誤解しているというのに。
言い訳はせず、彼女を守る為にすべて被るんです。

この行動が、素直に信じられるのは、序盤の「約束をすっぽかされたのに怒らなかった」という人の良さを知っているからなんですよね。
そして、根底にある彼女への想い。
口では、もう忘れた、なんて言ってますけど、嫌いになる理由があったわけではないですからね。

そしてまた、エレベーター・ガールの純粋さ。

上司に裏切られた事と、クリスマス、案の定家族の元へ帰っていく。彼女はちゃんとクリスマス・プレゼントを用意していたのに、部長は選ぶのが苦手だと、「現金」を渡して「好きなものを買いなさい」で済ますのです。

この上司、出れば出る程嫌な奴になっていきます。

ただでさえ不倫で、しかもお金をもらってしまったのが、スイッチとなったんでしょうね。
アパートにあった睡眠薬を大量に飲んでしまうのです。

あんな奴の為に命を、と思いますが、これはエレベーター・ガールもまた純粋だという、ちょっと手荒いですが、そういう表現なのかな、と思いました。

そして、看病の為、彼女と過ごすうちに、主人公はやっぱり彼女への想いがあふれてきます。

エレベーター・ガールもまた、見舞いにも来ない部長とはもう終わりだと、そう考えていた頃。

主人公は、もう部長にとって彼女は厄介な存在(自殺までして迷惑かけた)だから、部長に自分つきあいますと言えば、部長も厄介払いができて喜ぶだろうし、堂々とつきあえるので、一石二鳥なんじゃないか、と考えます。

ところが、何故かこのタイミングで部長は「離婚を決めたから、彼女は引き取るよ」と言い出すのです。

また2回目の告白のない失恋。
そして、素直に身を引くやっぱり良い人。

エレベーター・ガールは期待していなかったところへ、部長が歩み寄ってきたから、やっぱり受け入れてしまうんですね。これもピュアのなせる技でしょうね。

まあ、この辺はわからなくはないです。

けど、この直前の二人の仲が深まっていく当たりがけっこうまったりしてて、ダルさの原因でした。

あのまま、ハッピーエンドにならないなら、もっとさらっと部長登場でも良かったような。

で、部長登場で、うまくいくと思っていたのにそうじゃない、という意外性もありながら、これまた偶然、彼女は主人公の想いを知ります。

大晦日、いつも部屋を貸してくれていたのに、「もう貸せない」「彼女が相手だからなおさら貸せない」と言われた、と愚痴る部長。
その言葉だけで、ピンと来るんですね。

ここは、ちょっと部長、アホすぎてわざとらしさはありましたねw

最後は、気持ちに気づいた彼女が会社を辞めて引越し準備をしている主人公の部屋を訪ねて、ハッピーエンド。

部屋で出世したので、最後まで「部屋を貸さないなら出世も取り消すぞ」と脅されていたので、そのやりとりも洒落ていました。

役職だけが使うカギつきのトイレというのがあるんですけど、これも伏線だったんです。

最後に「わかりました」と鍵を渡すと、それは部屋の鍵ではなく、トイレの鍵なんですね。

間違ってるぞ、と言われ「いいえ、それでいいんです」と。

それがもう「会社を辞める」という意思表示なんです。

些細なやりとりですが、いちいち洒落ているなーと思いました。

こういう丁寧さは、今、映像の派手さや演出を凝るなど、映画での表現は格段に増えている分、手薄になりがちなのかもしれませんね。

だけど、やっぱり私は、こういう映画の方が好きだなーと思いました。

あと、もう一つ気に入ったシーンが。

クリスマス、部屋を貸しているので、バーで一人しょぼくれて飲んでいる主人公に、同じく1人の女性が声をかけ、意気投合するのですが、店じまいになっても二人で踊ってるんです。
そこを店主が「O・U・T。アウト!」って言うんですね。
英語での表現としても面白いなーと思ってすごく印象的だったのですが、その言い方を、アパートに戻ってから主人公が使うんですね。

多分、主人公は日頃はそんな強い言い方をするようなタイプではないけど、バーで言われたから言えた、という言い訳なんですかね。

クスっとしました。

不倫とか部屋のまた貸し? とか、時代としての感覚が今ではちょっと受け入れにくいという点はありますけど、やはり見て損はなかったです。


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