2016年3月1日火曜日
エル・トポ
エル・トポ HDリマスター版
1969年作品
監督アレハンドロ・ホドロフスキー
あらすじ:決して正義の味方ではない子連れガンマンが、旅先で出会った女のせいで、息子を捨て、4人の達人との対決を強いられる。
達人とはいえ、それぞれに卑怯な手を使って勝つが、その結果得られたのは、無だということに絶望する。
そして、一度は死んだ気になって心を入れ替え生まれ変わった男は、自分を救ってくれた異形の民達の救世主となり、穴倉の棲家から地上への出口を作ることに・・・。
今回、改めて制作年を見て、ちょっとびっくりしました。
超古くないですか?
私が見た時がすでにリバイバルだったんですね。
私が見るくらいですから、普通に封切だったのかなーと勝手に思い込んでいました。
というか、そもそもれっきとした上映なんてあってないような作品、でしょうけど。
ともかく、年ごろ的にいろんな「カルト」と言われる作品に興味を持って見ていた時期だったと思いますが、この作品ほど完成度が高く、印象に残る作品も珍しかったんです。
大抵が、出落ちとか、いっぱつネタとか。
カルトと言われるものの中には、正直、低予算でチープさ故に、面白くないものも沢山ありました。
お金をかければいいってものではなくて、お金の使い方そのものにセンスがない、と思えるような、いわば愛せない悪趣味、みたいな。
でも、本作はとにかく、予算云々はわかりませんが、完成度が高い。
変に特撮ちっくな演出がないのも、時代を感じさせない安定感になっているのかもしれませんね。
(だから、古さがない)
それと、何よりカルトなのに? ファッショナブルなところ。
ただただ、格好いい。
古くはマルティーヌ・シットボンがエル・トポそのもののようなコレクションを発表して、ともかく、欲しかったですね~。
当時は、もちろん今でも手が届かない価格帯のブランドでしたが、その後、忘れた頃に、ファミリー・セールで処分価格で数枚手に入れることが出来た時は、テンションあがりました。
そして、ファッションの世界は残酷なのと、私がちょっとゲンを担ぐ所があって、消滅したブランドのものってあまり縁起が良くない気がして、今ではすべて処分してしまいましたけど。
あ、それ以前に収納する場所がない、という家庭的な事情もあります。
こうしてエルトポを改めて見ると、また熱が上がってきます。
今ならば、エディ・スリマンのサンローランで、再現してくれそうですけどね。
もちろん、サンローランなんて買えませんので、プチプラで探したいです。
【ファッション】
ともかく、ファッションだけでも見どころだと思います。
主人公、エル・トポの黒一色だけど異素材使いのモダン・ウエスタンは、アメリカのウエスタンとは少し趣が違って、とにかくスタイリッシュ。
しかも、冒頭では、略奪の証として、全部の指にいっぱい指輪してる、というのがクローズアップされるのですが、デコラティブな石の指輪の重ね付けって、まさにトレンドじゃないですか?
そして、この真っ黒のアイコン的なファッションがストーリー的にも意味のあるものになります。
エル・トポの旅には2人の女性が同行するのですが、この女性のファッションは特に必見。
今時のトレンドとして、まったく身近に見れるところがすごい。
エル・トポ同様の黒一色のコーデだけど、良く見ると、ブラウスの上にジレ的な重ね着をしているようで、とろんとした素材のブラウスと、マキシスカート、それにつばの広めのハットが、まるでファッション誌の撮影と思えるくらい。
この第一の彼女は、何度かお色直しもあって、もう一つ。
白いブラウスに、細いボウタイ、黒のワイドパンツ、というスタイルは、それこそ、ここ最近のサンローランにありそうな感じ。
もう1人、途中でエル・トポを見初めて旅のPTメンバーになる第2の女性は、黒地に小さなドットのブラウスに、白いボウタイ。しかも、コットンぽくて、リボンじゃなくて、ただ垂らしている感じのつけ方がこなれ感!
彼女はヘアスタイルもモダンな印象で、ボブっぽくてそこにやっぱり砂漠ですからハット。
これも今ファッション誌の1ページにしてもおかしくないくらい。
メイクはちょっときつめですが、それがまた新鮮かもしれない・・・、けど真似はできないw
女性陣以外でも、道中登場する山賊の一見きちゃないオッサン達とはいえ、ハットとブーツに、ストール、みたいなファッションは、なんだろう、デフォルトで格好よく見えるんですよね。
特に、山賊もこれまた略奪の証として、ハットを重ね付けしているんですがwww
重ね被りか。
これ、ファレル・ウィリアムスあたりがやってないのが不思議なくらいですね。
絶対、やったほうがいい。
と、ともかく前半メインではありますが、ファッショナブルなんです。
【ストーリー】
前作「ファンドとリス」は、比較的シュールな映像作品といった趣が強く、決してストーリードラマではなかったですが、それに比べると洗練を感じるくらい、ドラマがあると思います。
その点の、いわゆるカルトと言われる世界の中で、特別な存在になっている理由じゃないでしょうかね。
私は、そうです。
やっぱり、見てもよくわからない、とか映像だけすごかった、みたいなだけだと、残らないんですよね。
もちろん、わからないなりに、気になってしまう、というような類もありますが。
でも、本作は正解不正解ではなくて、見ていて「こういうお話しなんだ」と素直に感じる事ができる、というのが、作品とのコミュニケーションが成立している(気持ちになれる)ので、なんか健全なんですよね。
比べてはいけないのですけど、こうして改めてみると、グリーナウェイ作品とは違う、親しみやすさ、を感じました。
本作も、「ファンドとリス」同様、ホドロフスキー的RPGでした。
より、洗練されて、わかりやすくなっているので、まぎれもないバージョンアップです。
最初は、親子だけのパーティーで旅をしてました。
目的は特になく、完全に正義とはいえないけれども、襲ってきた山賊のボスを仕留める事を、目的といます。
そいつらは修道院を略奪していました。
そこでは、完全にヒーローでした。
格好よく登場し、修道院を救います。
そして、ボスの女を強いられていた一人の女性と出会うのですが、この女が、助けてもらった事から、エル・トポにいいよります。
一度は、はねつけたものの、エル・トポは決して完璧な人間ではないですから、まだ小さな息子を捨てて、女を選びます。旅の馬に、3人は乗れないからです。
その時のセリフが、これまた格好いい。
「これが別れだ、俺を殺しに来い」
そしてこの女との出会いがある意味、エル・トポの運命に大きく影響するのです。
とんでもないビッチで、「私を愛してるならこの砂漠にいる4人の達人を殺してよ」と無茶ブリします。
それまではファンド同様、急にヒステリックに暴れて女性に乱暴もしていたのに、意外と素直に
「らせん状に探そう」とやる気まんまん。
何カ月も探して、4人の達人を見つけ出しますが、エル・トポはやっぱり勝ったもん勝ちとでもいうように、卑怯な手を平気で使うのでした。
ある時は、全盲の達人が穴に落ちてしまった所を、ある時は妻を大事にする達人の妻にけがをさせて油断したところを後ろから、とか。
ただ、単なる卑怯だけではなく、いつ穴掘ったっけ? とか、都合よく割れた鏡持ってたよね~、みたいな奇跡は起きているんです。
これがエル・トポ、マジック。
道中、達人の居場所を教えてくれるという二人目の女性も増えて、4人目の達人も見つけ出し、順調順調・・・と思いきや。
4人目の達人は、手ごわい人で、戦う事を拒否されました。
なんの意味はない、と。
そして、自らそれを証明する為に、自殺するのです。
その行動にショックを受けたエル・トポ。
確かに、人を殺して歩いても何も意味はないのです。
「神は私を捨てたのか」
と嘆きますが、
女に捨てられる羽目に。
腑抜けとなったエル・トポには用はない、とばかりに、一時はエル・トポの取り合いまでしていたはずの女2人が、今度はエル・トポに銃を向けます。
甘んじて受けるエル・トポ。
すると、倒れたエル・トポをフリークス、異形の民達が助けるのです。
そこで、目覚めたエル・トポはサイヤ人化しています。
そして、物語のお約束的な感じで「救世主」扱いされます。
と、同時にうるるん滞在記も始まり、長老に挨拶をし、エル・トポですら「おえっ」とするようなもてなしを受けます。
カブトムシみたいのを吸わされるんですが、それがドラッグ的なものなのか、急にテンションアップして、長老を押し倒す勢いに。
何故か、長老から生まれた体になり、生まれ変わったようです。
そして、この異形の民達の救世主になろう、と頑張りだします。
この集団は、穴倉のようなところに住んでいるのですが、出入口が1つしかなく、しかも不便なので、ただでさえ不自由な身体では出入りも数日かかってしまっていたのでした。
街の人間は、それを知っても異形である事から無視しています。
それどころか、KKK的な白人至上主義の教団が流行っていたりと、かなり恐ろしい街なのでした。
そんな街に、異形である人達が受け入れられるのは、簡単ではないでしょう。
でも、救世主としてがんばると決めたのですから、まずは、出入口を開けようと、相方の小人の女性とともに、小銭稼ぎを始めます。
やがて、その活動をする中で、小人の女性の想いを知り、二人は結婚する事に。
そこで、駆け込んだ教会は、すでに教団を解散したものの、カルト教団だった場所。
そこにいたのは元雇われ教祖的な男なのですが、それがエル・トポがかつて捨てた息子なのでした。
「俺を殺しに来い」
その言葉を守り、出会ったと同時に襲い掛かります。
が、すでに父は心を入れ替え、別人になっているのでした。
そして「救世主」であることを知り、その活動が終わるのを待ってから復讐することにします。
教祖的な格好から、エル・トポそのもののファッションに衣装替えをして2人を監視する息子ですが、その姿は3人の親子。
(ここでエル・トポのアイコン的ファッションが生かされるんです)
ですが、約束は訪れます。
ダイナマイトを買うお金も溜まり、無事、新しい穴を開ける事ができたのでした。
「すぐに出るのは待ってくれ」と言うと同時に息子に銃をつきつけられます。
が。
「師は殺せない」
と息子は頬を叩いただけで、銃を落としその場を走り去ります。
待て、と言うタイミングで異形の民達が、穴からあふれ出て来てしまいます。
こっちもまた「待て!」なのですが、誰も聞きません。
そして、追いついた時には時は遅く、全員が街で無抵抗のまま、銃殺されていたのでした。
その死体の山を見て、またしても怒りで覚醒するエル・トポ。
封印していた銃の腕を街に向けます。
そして、最後は、自分にも火をつけて自ら命を絶つのでした。
その死体に近寄るのは、エル・トポに残された、産まれたばかりの息子を抱いた奥さんと、捨てた息子。
そして再び旅に出ます。
成長し、エル・トポそのままになった息子と、小人の女性、そして赤ちゃん。
遠くから見えるシルエットは、まるで冒頭のエル・トポと息子のよう・・・。
と、いう感じでわかりやすいんです。
ところどころ、フリークスとか痛々しい映像はありますが、そういう見た目に左右される隙がないようなドラマになっていると思います。
そう、これもエル・トポの良いところだと思います。
ただ、ショックな映像を作るんだ、というカルトにありがちな感じではなく、ドラマからの必然を感じるから、ショックではあるのですが、決して悪趣味ではなく、これに目をそらしてはむしろ失礼になる、という気さえおきるんですよね。
本当に、凄いと思います。
【馴染みやすい漫画的? 様式美】
そして、エル・トポにちりばめられた、マンガちっくな要素も、見る人、特に日本人には馴染み安いんじゃないかなーと思いました。
RPG的展開。
全盲の達人の身体ある、まるで北斗の拳のような傷。
というか、全盲の達人は北斗の拳にいそうな感じ。
サイヤ人化。
死にかけると覚醒して強くなる? ドラゴンボールシステム。
「来るのはわかってました」
虫取り網で銃弾を撃ちかえす達人(テニスの王子様的なトンデモテニスの原点)
父と子の物語。
などなど。
改めて抜き出してみると、ジャンプ派なのかな?
ともかく、一見突飛な世界観でありながらも、そこに繰り広げられるドラマは、比較的理解しやすく、そしてある種の王道でもあるところが、いつまでたっても色褪せず、カルトの中のカルトで居続ける理由なのではないでしょうかね。
そういえば、「エル・トポ」が、決して完璧ではないのに旅に出る事で、間違いを知り、そしてやり直す、という、人間的には、「不良だったけど今では更生しました」という決して、かけ離れたストーリーじゃない、というところも良いんですよね。
そして、それを受け入れようよ、という事もこの映画から改めて気づかされます。
人はやり直しが出来る。
いい話なのです。
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